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□ヒガンバナが咲く頃
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「……これ、返す」
そう言って差し出して来たのは小さな箱。
中には去年渡した指輪が入っていた。
「この方が後腐れなくていいよね。売るなり他の誰かにあげるなりしなよ」
彼女の態度はとても素っ気なくて、自分との関係はさっさと断ち切りたいという思いがひしひしと伝わってくる。
指輪も、多分その意思表示。
心配しなくても、追い掛けるつもりなんてないのにね。
「荷物はまとめたから、明日には出てく。共同で買ったのとかは捨てていいよ」
いいよ、とは言ったけれど、それは使うなと言われているようで。
「じゃあね、おやすみ」
いつの間にか別々になった寝室に彼女の背中が消えていく。
明日起きたら、この部屋には一人ぼっち。
この家には一人ぼっち。
彼女が去った、ある日のお話。
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