パラレルグラフィティ


□さんぽ道-手を繋ごう-
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夕飯の準備の最中、ソウの耳がピクッと動いて、耳の後を追うように、顔が玄関の方を向く。

「せんせーだ!」

小走りでソウが玄関に向かうと、ほぼ同時にチャイムの音が響いた。インターホンを取り、液晶画面に映る友人に、鳴海はやれやれと息を吐く。

「鳴海〜、オレオレ!」
「入れよ。ソウが待ってる」

返事をしたら、玄関のドアが開く音が聞こえた。

「せんせ…」
「マテ!!」
「っ!」

坪井の声が鋭く響き、ソウが息を飲んで動きを止めるのが気配で鳴海にも伝わる。

「ヨシ、よく我慢できたな」
「えへ♪」

鳴海が玄関の様子を見に行くと、ビスケットを貰ってご機嫌なソウが、坪井に撫でられていた。

「よ、鳴海!一緒に飯食おうぜー」
「お前の分は用意してないぞ」
「買ってきたから大丈夫。それより鳴海、飛び付き癖はちゃんと叱れよな」

弁当屋のビニール袋をぶら下げながら、坪井は鳴海の胸を拳で軽く小突いた。

「いいじゃんか、誰にでもやるわけじゃないし」

たしかに、ソウが犬だった頃は、鳴海も気をつけていたが、今はあまり気にしなくなり、ソウの好きにさせている。

「そーゆー飼い主がナメられるんだよ。ソウの為にもならねぇし…」

言葉の裏に、坪井が気にしている、ソウの姿が元に戻ったら…。という危惧を感じ取り、鳴海は目を逸らした。
あまり、そういうことは考えたくない。

「はいはい。その辺の躾は、お前に任せるよ」
「…ったく、トレーナーは嫌われ役ばっかなんだよなぁ…」

坪井も、それを深く追求しようとはせず、ボヤキながら頭を掻いた。
そんな二人のやり取りを見ていたソウは、なにか不穏なものを感じて、坪井の袖を引っ張る。

「僕、せんせーのコト好きだよ?」
「じゃあ、オレと鳴海、どっちが好きー?」

ニヤリと笑って坪井が問うと、ソウの耳が垂れて、目が泳いだ。鳴海と坪井の間で視線が行ったり来たりする。

「え?えっと…ぅーん…」
「どっち?」
「ぅ〜…きゅ〜…」

更に坪井が問い詰めると、ソウは困り果てた顔を、無意識に鳴海にむけて、助けを求めた。当然といえば当然の反応だ。

「コラコラ。ソウを困らすんじゃない」

鳴海に抱き寄せられ、ソウはホッとした顔で、頭を擦り寄せる。

「はいはい、どーせ飼い主には敵わないもんなー」

分かりきっていたことだが、坪井がいじけたような口調で話すと、坪井がショックを受けたと思ったソウは、はっとして駆け寄った。

「…せんせー…ごめんね?」

ぎゅーっと、抱き着くソウを撫でながら、大人気なかったかな、と坪井は心の中で呟く。

「大丈夫。ほら、ご主人様がヤキモチ妬くから行ってこい」
「うん。まー君も」
「ん。ありがとう」

坪井の元から、鳴海の元に戻ったソウは、鳴海にも抱き着いて、二人の雰囲気が通常に戻ったことに、安堵の笑みを浮かべ、鳴海の手を取った。

「ご飯食べよ?」
「そうだな」

鳴海がソウの手を握り返すと、ソウは坪井を向き直り、手を伸ばす。

「せんせーも」
「おう」
「みんなでご飯は楽しいね♪」

鳴海と坪井、二人と手を繋いだソウは、今日一番の笑顔を浮かべた。


<END>

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