パラレルグラフィティ


□さんぽ道
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「ただいまー…?」

いつものように、家のドアを開けた途端、飛び込んで来た異様な光景に、俺は眉をひそめた。
部屋は暗く、いつも出迎えてくれる愛犬の姿は無く、電気を付けてみれば、室内は、空き巣でも入ったかのように荒れている。

「マジかよ…」

ざぁっと血の気が引いて、真っ先に気になったのは愛犬の事。
ソウは普通の犬とはちょっと違っているから、もし他人に見付かったりしたら…、ソウの身に何かあったら…、考えただけでゾッとする。

「ソウ!?」

室内を見渡しても、ぱっと見では見当たらなくて、返事もなくて、今まで生きてきた中で、こんなに焦った事は無いんじゃないかってくらい焦った。
必死に心を落ち着かせて、もう一度、明るくなった室内を見渡す。
すると、ベッドの上にあるはずの掛け布団が、クローゼットに押し込まれているのに気付いた。
恐る恐る、その布団を引っ張ってみる。

「ッぎゃん!!!…やだやだやだっ!!ゴロゴロ来ないで〜っ…」

声を上げながら、姿を見せたのは、薄茶色の耳と尻尾を付けた青年で、上半分が垂れた耳を隠すように押さえて、クローゼットの奥にうずくまっていた。

「ソウ、俺だよ」

良かった、怪我とかは無さそうだ。
ほっと胸を撫で下ろしながら、震えてるソウを抱きしめる。

「…あ、れ……まーくん?…〜っ、まー君〜…怖かったよ〜…」

俺を認識するなり、ソウは力いっぱい抱き着いてきた。顔を、ぎゅーっと俺の胸に押し付けて、震えてる。

「大丈夫か?どこも痛くしてない?」

垂れてしまった耳と耳の間を、何度も撫でて、落ち着かせる。

「…うん。…あのね、ゴロゴロがね、ビカビカって…」
「ゴロゴロ?…雷のこと?」
「きゅぅ〜…ゴロゴロきらいー…」

こくこくと頷いて、ソウは、また耳を両手で押さえた。
なんか子供みたいだな。

「よしよし。もう大丈夫だよ」
「…ホント?」
「ホント」

ようやく少し顔を上げた、ソウの額にキスをして、涙で赤くなった目元や頬を、優しく撫でる。
するとソウは、しばらく気持ち良さそうに目を細めていたが、ふと、何かを思って俯いた。

「…お部屋、散らかしちゃった…」

怒られると思ってるのか、尻尾が足の間に巻き込まれて、小さく震えてる。

「あぁ。泥棒でも入ったのかと思って心配した」
「ごめんなさい…」
「いいよ。…後で一緒に片付けような」

これからの夕立シーズン、毎回こうなるのだろうか?
ソウの頭を撫で回しながら、どう乗り切ろうかと考えを巡らせた。


<END>

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