パラレルグラフィティ
□Last Wish※
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出陣前夜、酒のせいで多少ふらつく足取りで酒宴の席を抜け出す。
外は、橙色の夕日が綺麗だ。
隊舎脇の診療所を通り過ぎ、医療従事者達が暮らす長屋の、ある部屋の戸を叩いた。
「先生〜」
明日の保証なんて出来ないから、この戸を叩くときは、いつだって嬉しい。
ガラリと戸が開いて現れたのは、軍医の鳴海先生。若いけど優秀なお医者さんで、一応、僕の恋人。
「いいのか?出陣前に小隊長がこんなトコ来て」
隊長って言っても、末席の小隊だから全然偉くないし、隊の中でも歳が若い方だから、上下はあんまり関係ないんだけど。
「…迷惑なら帰ります」
「冗談だよ。入れ」
いじけるような素振りを見せたら、先生の手が僕の背中に回り、家の中に引き込まれる。背後で戸が閉まる音がして、少し気が抜けた。
「…っと」
中に上がろうとした拍子に、よろけてしまって、先生に苦笑される。
「珍しいな、酔ってる?」
「少し。今日はなかなか放して貰えなくて…」
「慕われてる証拠だな。水持ってってやるから、上がって休んでろ」
離れる体温が淋しくて、僕は先生の着物を掴んだ。
「想?」
「お酒、持って来たんです。飲みませんか?」
「明日…」
「大丈夫。僕がお酒強いの知ってるでしょう?」
「わかった。お前の湯飲みを…」
「いいから、早く座ってください」
「へぇ…」
ニヤリと笑った先生が畳の上に胡座をかくと、僕はその膝に跨がって、酒を一口含み、先生に口付けた。
「んっ…ふぅ、ん…」
口移しで酒を飲ませるなんて、素面じゃとても出来ない。酔っていたって恥ずかしい。
「っは、いい酒だな…。次はお前が飲め」
柔らかく押し倒される感覚に、軽く目が回った。
「ん、く…っは…、んぁ…んんぅ…」
酒と共に忍び込んだ舌が、口の中で暴れ回る。
唇から零れた酒を辿って、先生の舌が首筋を擽った。沸き上がる感情に逆らえず、体が跳ねて、先生を喜ばせる。
「もっと呑むか?」
「酔わせて下さい…」
「酒に?俺に?」
「…先生に」
少し乱れた合わせから、先生の手が忍び込み、着物を肌蹴させた。そして、胸でぷっくりと存在を主張する赤い実を優しく撫でられる。
「っあ…」
「戦の前のお前は、いつにも増して、やらしいな」
先生だって、いつもの何倍も意地悪で、だけど僕に触れる手はこれ以上ない程に優しいよ。
先生も、これが最後になるかも知れないって思ってるんでしょ?