君色グラフィティ
□まだ知らない君のこと。
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「鳴海、疲れちゃった?大丈夫?」
ほら、想に心配されてるし…なんかごめんと謝りたくなる。俺はこの後バイトの想の方が心配なんだけど。
「大丈夫だよ。想こそ大丈夫?」
「え?大丈夫だよ。でもバイトの前にシャワー浴びなきゃ〜…」
想はタオルを団扇代わりにパタパタ扇ぎながら、相変わらず楽しそうにしてる。疲れた様子はないっていうか、これが当たり前って感じだ。
「想、少し焼けた?」
「そうかも…日焼け止め塗ったんだけどなぁ」
シャツの袖を捲って焼けた皮膚との境目を撫でながら、想は小さくため息を吐いた。しかしすぐになにか思い付いて笑顔で俺を見上げる。
「あ、そうだ!鳴海、はじめての野球観戦どうだった?」
「楽しかったよ。野球部の奴らってグラウンド立つと雰囲気変わるな。見応えあったよ」
正直ここまで楽しめるとは思ってなかったが、普段よく知ってる奴らが頑張ってるのを見れば、やっぱりそれなりに気分が上がる。
「鳴海だってバスケしてる時は雰囲気違うよ?」
「そうか?」
それは意外だ。だいたい何してる時も変わらないって言われるんだけどな。
「うん。楽しそうだし、それに勝負師って感じがする」
「勝負師ねぇ…」
競技スポーツやってれば、誰でも勝負は意識すると思うけど…まぁ普段の性格とは違うよな。
「想はどうなの?」
「なにが?」
問い掛けると、きょとんと首を傾げる。こんなおっとりした奴が野球してるときは勝負を意識してどうなるんだろうか。
「どんな野球するのかなって」
「うーん…地味?」
「地味?」
「得意なの、バントとかだから…長打の打てる誠吾みたいに目立つ選手じゃなかったよ」
それって凄くないの?今日の試合では両チームともバントが成功しなかった。
「バントって難しいんじゃないのか?見てみたかったな」
「コツを掴めばそんなに。シニアリーグの時のDVDなら残ってたかなー…」
「へぇ、今度見せてよ」
「いいけど、今日の試合と比べると全然面白くないよ?」
想は不思議そうにしてるけど、俺は試合の面白さを期待してる訳じゃないから構わない。
「いいんだよ、想が野球してるとこ見たいし。坪井のノーコンも気になるしな」
「あ…もしかしたらベンチで僕が誠吾ひっぱたいてるの映ってるかも…」
えぇマジで?想がそんなことすることもあるんだ。
「そんなことあったの? そうだ。ついでに野球のルールも教えてよ」
俺の知らない想を見てみたいなんて言っても想は首を傾げる気がするから、野球に興味を持ったって事にしとこう。すると想は目をキラキラさせて頷いた。
「いいよ!ルール分かるともっと見るのが楽しくなると思う♪」
こういう顔が見ると、一緒に話せる話題が増えるのは良いことだと思う。
「そしたら準々決勝はもっと楽しめるな」
「見に来てくれるの!?」
「来ない方がいい?」
「ううん!鳴海も野球が好きになってくれたら嬉しい!バイト終わったら部屋行くね♪」
そう言って喜ぶ想は本当に嬉しそうで可愛くて…人前じゃなかったら抱きしめてるが、理性総動員で頭を撫でるだけに留める。
よくやった、俺。
しかし想は相変わらずの笑顔で俺に追い撃ちをかける。
「そしたら鳴海、今度僕にもバスケのルール教えてね」
真っ直ぐな笑顔を向けられて、心臓のあたりがキュンとなる。
「もちろん、いいよ」
再度想の頭を撫でながら、やっぱり寮に帰ったら抱きしめようと心に決めた。
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