君色グラフィティ


□まだ知らない君のこと。
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野球部の応援に誘われた。ちょうど部活も自主練日だったし…というか、このところ想が野球部の方で忙しくてすれ違ってばっかりだったから、軽い気持ちで誘いに乗った。
それにしても野球の応援て大変だな…。炎天下でこんなに大声張り上げて、みんな明日大丈夫なのか?そんなこと考えてる時点で俺はこの手の行事に向いてないとつくづく思う。

「大丈夫?水飲む?」

ぼやっと突っ立ってしまっていた俺を見上げて、想は心配そうにペットボトルを差し出した。

「いや、大丈夫。ちょっと圧倒されてただけ」
「今日は保護者もOBも来てるから盛り上がってるよね」

そう言う想もだいぶ盛り上がってる気がする。保護者やOBは分かるけど普段なら野球に興味のなさそうな連中も来てるし、これほど多くの人を駆り立てるものってなんだろう。

「すごいな野球て…」
「夏の大会はお祭りだからね。…あ、次は誠吾の打席だよ!」

メガホン片手に応援を再開する想は、心から楽しいっていうオーラが出てて少し妬ける。坪井に、というより野球自体に嫉妬とかどうなんだと自分の人間性を疑いたくなるが、想が楽しそうにしているんだから良しとしよう。

「誠吾ー!打てー!!」

想の声援に応えるように打球が守備の間を抜け、観客席が歓声に涌く。坪井は二塁に、元から三塁に出ていたランナーはホームに帰ってきた。

「やったぁ〜っ!」

飛び付いて喜ぶ想を抱き留めながら、グラウンドの坪井に目をやる。坪井的にも会心の出来だったらしく、大きくガッツポーズを取っていた。その光景がどういうわけか、いつもつるんでる坪井とは別の、ちょっと遠い存在に見える。想もグラウンドに立っていたらあんなふうに見えるのか?興味が湧く。そもそも、想はどんな野球をしてたんだろう。坪井がピッチャーだったて言うのも想像出来ないが、想がキャッチャーなんてさらに想像できない。こんなに華奢で大丈夫なのか?



あれこれ思っているうちに、結局あの1点を守り切って、うちの学校が勝った。観客席はお祭騒ぎだったが、それに乗り切れない自分の性格にはうんざりしてしまう。
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