君色グラフィティ
□HAPPY BIRTHDAY!
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9月16日。
朝練が終わって部室を出たところで、いつもに増して楽しそうな想に会って「はい!」と小さな紙袋を渡された。
「なに…?」
何か貸し借りするような約束をしていただろうかと考えてみるが、思い当たる節がなくて首を捻る。そうしている間に、想の瞳には見る見る不安の色が広がっていった。
「…誕生日、今日じゃなかった?」
恐る恐る確認されて、そういえば…と納得する。
「…あぁ、今日だな」
“誕生日は特別な日”という認識がないので、すっかり忘れていた。…って事は、誕生日だってのに朝からジャンケンに負けて、朝練の片付けを押し付けられたのか。ツイてねぇなぁ。
「おめでとう♪」
しかし、可愛い恋人がこうして祝ってくれるのだから、良い一日のスタートだ。
いつ誕生日なんて話をしたのか、おそらく会話の流れで何となく言ったのであろう日にちを覚えていてくれた事が嬉しい。…もし、俺に気付かれないようにこっそり調べてくれたのだとしたら、もっと嬉しいけど…。そんなに期待はしないでおこう。
「じゃあ、また後、で、っ…鳴海…?」
ほっとした様子で手を振って、忙しなく立ち去ろうとする想の腕を掴み、死角になりそうな物陰に引き込む。一応、周りに人が居ないか確認してから、事情が飲み込めずにキョロキョロしている想の頬にキスをした。
「ありがとう。嬉しいよ」
柄にない事してるとは思うが、この上なく嬉しかったからしょうがない。プレゼント渡すために、部室の近くで待ち伏せなんて可愛すぎだろ。
「…な、にして…ここ、ガッコ…」
想は火を噴きそうなくらい顔を真っ赤に染めて、やっと声を絞り出した。
「わかってるよ」
「わ、わかってるって…えぇー?ちょっと、うそ…」
意味の無いような事を呟きながら、地面に座り込んでしまいそうな想を立たせてやって、今度は額にキス。
うひゃあ、と色気の無い悲鳴を上げてジタバタするのが可愛らしくて頬がにやける。今度はどこにキスしようかと思っていたら、想の手が俺を押しのけた。
「だめ!HR始まるし…っ!!」
とかなんとか言いながら、逃げるように腕をすり抜けた想を追い掛ける。
「悪ふざけしてごめんな。でも、嬉しかったのは本当だから」
「…ッ!!」
追い打ちをかけるように耳元に吹き込むと、想は声にならない悲鳴をあげて、その場で足を止めた。
「想ー?HR遅れるぞー?」
「もー…誰のせいだと思ってるん…?」
可愛すぎる想のせいだよ。とは心の中で呟いておくことにした。
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