君色グラフィティ


□気になるあの子
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「珍しい奴がいる…」

心の中で呟いたはずの言葉は、暑さにつられて口から零れ出てしまった。零れた言葉が転がった先にいた中学の同級生は、振り返って俺を認識すると口元だけを笑みの形に歪ませた。
そうそう、この感情の揺らぎを感じさせない表情。真幸も変わらないな。

「イチか、久しぶり」

懐かしいあだ名で呼ばれて、部活の顧問が一年間も「一橋(ひとつばし)」を「いちはし」と間違い続けたせいで、このあだ名になったんだよな…と、どうでもいい事を思い出す。
特に話すネタが無いので「元気?」と当たり障りの無いことを聞いてみた。まぁ見た感じ元気そうだけど、悩みがあったりしたら聞いてやろうと思うくらいに仲は良いつもりだ。

「元気だよ。お前は?」
「見ての通り」
「相変わらず好きだな」

それ、と目線で指されたのは手元にあるアイスの入ったカップ。ちなみに今は夏のシーズンフレーバー制覇中。今度、雪だるま大作戦も制覇しないと。

「まぁ趣味みたいなもんだから」
「何味?」
「ココナッツグローブ。美味いよ」

よくそんな甘そうなものが食えるな。と顔をしかめるだろうと思っていたら、意外にも真幸は表情を緩めて「あぁ、それ美味かった」と言うから驚いた。前はコーヒー系か、さっぱりしたシャーベット系しか食べなかった奴が、どういう心境の変化だ?

「…なに真幸、彼女でもできた?」
「なんでそこに繋がるんだ…。まぁ、彼女じゃないけど…好きな奴はできたよ」

おっと、この返しも意外だな。真幸に「好き」って言わせるなんて、どんな子だろう。…凄い美人とかだったりするんだろうか。
っていうか彼女じゃないって何?

「片思い?」
「…そうでもない」

ですよねー。
片思いなんて不毛な恋に労力使うような奴じゃないよな。

「脈ありなら、さっさと告っちゃえばいいのに。どんな子?カワイイ?」
「あぁ、可愛い」

真幸の顔に浮かんだのは、貼付けたような笑い方ではなく、内側から浮かび上がるような自然な笑み。真幸のこんな表情、少なくとも中学3年間で俺は見たことがない。

「…あーあー、惚気かよ」
「俺、そんなに浮かれてる?」
「浮かれまくってる。なぁ、時間あるならメシ行かない?」

真幸が入れ込む相手がどんな子なのか気になるし、質問責めにしてやろうと思ったのに、真幸は時計にチラリと目を落として「悪い。約束あるから」と答えた。誰とは言わなかったけど、おそらく例の彼女との約束だろう。
しょうがない、ここは大人しく引き下がろう。俺はまだ馬に蹴られて死にたくない。

「そ。じゃあ、また」
「ん。またな」

人混みに紛れていく後ろ姿を見送りながら、良い恋してるんだなぁという羨望の思いと敗北感が渦巻いて、ふと「恋がしたい」と呟いてしまった。



<END>

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