君色グラフィティ


□相愛傘
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知り合ったばかりの頃から、篠宮の事はよく見ていた気がする。でもそれは、同じクラスで仲の良かった坪井の幼なじみだからとか、寮の部屋が隣だからとか、そんな理由だと思ってた。
けれど、その気持ちが崩れたのは、春の終わりに告白してきた女の子と、なんとなく付き合い出してから。
話をする時、手を繋ぐ時、キスする時…、何かにつけて、篠宮の事が意識の底を掠める。気が付けば彼女に、篠宮の影を重ねている事に鳴海は驚き、それと同時に自分の本当の気持ちも理解したが、その感情は一般的に受け入れられるものでは到底無いと判っていたので、心の中にしまい込む事にした。

“誰かの代わり”なんて関係が長続きするはずもなく、彼女に別れ話を切り出したのは、鳴海が自分の気持ちに嘘が付けなくなった秋の始まる頃。

彼女と別れたその足で、篠宮がバイトしているカフェに立ち寄る。店内に姿を見つけると、少しだけ心が痛んだ。

「あれ?今日は彼女と一緒じゃないの?」

一人で店に入った鳴海を見た篠宮は、からかうでもなく、ただ不思議そうに疑問符を浮かべる。

「あぁ。別れたんだ」

隠すことでもないから素直に話してみると、みるみる篠宮の表情が曇った。

「えっ……そっか…大丈夫?」
「大丈夫だよ」

そんな顔するなよ。なんで、俺より篠宮の方がショックな顔してんの?

「ゆっくりしていってね。今日お店空いてるし、なんかあれば話聞くから…」
「篠宮は良い奴だなぁ」

篠宮の傍は居心地が良い。
それだけで、今は十分だと思う。
下手に踏み込んで、このバランスを崩すのは怖い。



そうして季節は巡り、再び春が来て、鳴海たちは2年になった。
クラスが変わり、篠宮は相変わらず違うクラス、鳴海と坪井もクラスが別れ、仲の良かった3人が、それぞれ別のクラスになる。それでも気が合う者同士、昼休みや部活の無い時は、一緒に飯を食べたり、馬鹿な話で盛り上がったり…。

ずっと、こんな日が続くんだろうな…。

そう思っていた、ある日のこと。

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