君色グラフィティ


□バレンタイン・キッス☆
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「ばれんたいんでーきす♪」

なんとなく、帰りに寄ったコンビニで聞いた曲を口ずさみながら、切った野菜を鍋に放り込む。
今夜は屑野菜を使い切って、豚汁ぽい物を作ろう。豚肉を適当に切ったら、ぐつぐつと煮える鍋に投下。味噌で味を付ければ、見た目はイマイチだけど美味しそうな匂いがしてきた。明日も寒いだろうし、朝はこれにご飯を入れて煮込もう。
あとは…さっき買ったサラダ、量が少なかったから、この前煮といたブロッコリーで、かさ増ししないと。
冷凍ブロッコリーをレンジにかけて、コンビニで買ったキットカットを開ける。ぱきん、と半分に折った一つを口に入れて、レンジが止まるのを待つ。
口の中が甘いけど、疲れた体は待ち望んでいた味。バレンタインのおかげで、バイト中ずっとチョコの匂いが絶えなかったせいもあるかも。
あぁ、そうだ。バイト先で貰ったパン、バッグから出さないと潰れちゃう…って、あ…

「やば…」

手に持ったままだったキットカットの半分が、溶けかかって手の中を滑る。慌てて口に放り込んだら、部屋のチャイムが鳴った。

「はーい!」

こんな時間に訪ねて来るのは、鳴海か誠吾かな?何の用だろう?
指についたチョコを舐めとって、玄関を開ける。

「想、バイトお疲れ」

ドアの外には鳴海の姿。ラフな格好でも、だらし無く見えないのが羨ましい。

「あ、うん。 鳴海、どうしたの?」

今日は、会う約束もしてなかったから油断してた。鳴海が来るなら、もっと、まともな夕飯作れば良かったな…。
後悔が渦巻く僕の目の前に、小ぶりな紙袋が差し出された。

「これ、渡したくて。それだけだから。じゃあな」
「え?ちょっ…」

思いもよらないプレゼントに面食らいつつ、中を覗いたら、けっこう有名な製菓会社のロゴマーク。

「……チョコ…。 な、んで…?」

今日、チョコレートを渡される理由…分かってるけど、一応確認。

「今日はバレンタインだぞ?」

やっぱり。
でも、僕も男で、鳴海も男で…バレンタインって女の子が男の子にチョコあげる日じゃないの?あれ?なんか違う?

「それ、は、知ってる…けど…」
「じゃあいいだろ。好きな奴に、好きって伝える日なんだから」

あぁ、そうか。
って、感心してる場合じゃない!

「…えー!どうしよ!…ちょ、ちょっと待っ…僕も、チョコ…」

チョコって言っても、箱を開けてしまったキットカットしか思い浮かばないけど、まったく何もあげないよりは良いかも!と自分に言い聞かせる。

「あぁ、いいから」

流し台の方に振り返ろうとした体を引き止められて、唇が重ねられる。ぬるりと唇の端の方を舐める舌の感触、微かに香るチョコの匂い。腰が抜けそうな程驚いた。

「っ! ???」
「これで十分」

満足そうな鳴海の笑みが、どうしようもなく恥ずかしい。

「な、なに?なんで?」
「チョコ付いてた」
「あ…」

さっきの…。

「ご馳走様」

放心状態の僕に、鳴海は苦笑いで手を伸ばした。くしゃりと頭を撫でられて「また明日な」と言われる。必死で頷く僕から、名残惜しそうに手が離れて、鳴海の姿がドアの向こうに消えていく。
こういうことを、サラっとやっちゃう辺り、やっぱり鳴海は大人だなぁ…。

「…はぁ」

息を吐くのと一緒に、全身の力も抜けてしまった。キスされた感覚が、なかなか抜けない。

「明日、どんな顔して会ったらいいの…」

恥ずかしすぎて、まともに顔なんか見れない気がする。


<END>

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