君色グラフィティ
□Breakfast
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朝食を作る音で目が覚めて、キッチンには可愛い恋人がいて。
「〜♪」
調理の合間に聞こえる鼻歌に、笑みが浮かぶ。
「おはよう」
「おはよ、ん…っ。…な、なに…?」
想が振り向いた瞬間を狙って、抱き寄せてキスしたら、思わずニヤけてしまうくらい、想は頬を赤く染めた。
ほんの挨拶のつもりだったのに、あんまり照れられると、こっちも照れる。
「いや、あんまり可愛いから、つい…」
「そんな事言うの、鳴海だけだよ」
ふいっと目線を逃がして、想は調理に戻ってしまった。
肩越しに想の手元を覗き込んだら、そこには卵と牛乳とパン。今日は、和食好きな想にしては珍しく、洋食らしい。
「フレンチトースト?」
昨日の深夜、なんとなく付けっぱなしだったテレビでやっていた、ドラマだか映画だか、それで主人公が作っていたフレンチトーストが美味そうだったのを思い出す。
「うん。昨日テレビで見たら、食べたくなっちゃった。鳴海、食べられる?」
「大丈夫。俺も食べたかったんだ」
朝から甘いものは苦手だけど、想も同じ事を思っていたのかと思えば、そんな事はどうでもよくなった。
「良かった♪…あ、そうだ。布団上げて、テーブル出してもらっていい?」
「ん」
言われた通り、ベッドの横に敷いた布団を畳み、折り畳みのテーブルを出していると、ちょうど良く、想が焼きたてのフレンチトーストと付け合わせのサラダを持って来る。
『いただきます』
二人で向かい合って、手を合わせる。実家では一人で食事することが多かったから「いただきます」と言う習慣さえなかった。
想は、俺に当たり前の大事な事を教えてくれる、大切な存在。
「好きだなぁ」
「これ?じゃあ、また作…」
「あぁ、そうじゃなくて…」
「?」
言葉を遮ると、想が、きょとんとした顔で小首を傾げる。
小首を傾げるって動作が、こんなに可愛いって、最近になって始めて知った。
「想の事。大好きだよ」
「な…な、なんで今…」
頬を赤く染めながら、想の視線が、自分の手元と俺の間でオロオロとさ迷う。
そんな反応するから、もっとイジメたくなるんだよ。
「言いたくなったから」
「…どうしたの?なにかあった?」
困った表情が、心配そうな表情に変わって、想が俺の顔を覗き込む。
「無いよ。大丈夫」
「ならいいけど…」
それでも想は心配そうに、移動してきて隣に寄り添った。
「想?」
「…僕も、好きだよ?」
朝からこの可愛さは、俺の理性が試されているのだろうか?
重ねた唇からは、甘いフレンチトーストの味がした。
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