君色グラフィティ
□ボーイズライフ
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バスケは炎天下の外でやるもんじゃない。
1学期末の球技大会、うっかり決勝まで残ってしまって、頭がクラクラしながら、今日だけで、もう何本目になるか分からないシュートを打つ。
ふわっ、と宙に浮いたボールは、放物線を描いてゴールに吸い寄せられたものの、リングに触れて跳ね返った。
「…ぁー…」
体力が無くなるのに比例して、シュートの精度も落ちてくる。
吐く息と一緒に、全身の力が抜けていくような気がして、膝に手を付き、荒い息を整えた。
「鳴海、ドンマイ」
「悪い…」
「いーって、いーって。先輩達に花持たせよう」
俺の背中を叩きつつ、先輩達には聞こえないように、チームメイトが囁いた。
残り時間は、あと3分。
4点差で先輩達のリード。
体力はもう限界。
たしかに、たかが校内の球技大会。優勝しても、その上があるわけでもない。それほど必死になる必要はないか。
「それもそうだな…」
顔を上げ、腰に手を当てて、空を仰いだ。
なんで、こんなに頑張ってんだっけ?
何気なく見渡したギャラリーの中に、答えを見つけた。
『がんばれ』
声は直接聞こえなかったけど、想の口は、たしかにそう動いた。
恋人からの声援。
これは頑張るしかないだろ?
目を閉じて、イメージする。
相手のディフェンスを交わして、ゴールを見据えて、シュートを構えて、ボールが指先から離れる、その感触すべて。
調子が良い時の感覚を、体に呼び起こす。
「よし」
気合いを入れ直して、走り出した。
「なーるみっ!」
放課後、寮までの道を歩いていたら、後ろから走って来る足音に、軽くタックルされた。
「ぉっ!?…想は元気だな…」
「1回戦で負けちゃったからね〜」
元気というより、テンションが高い?負けたと言う割に、その表情は晴れやかだ。
元々、体を動かすのは好きみたいだから、そのせいか。
「その方が正解だよ。最後までやったら頭ガンガンする…」
「大丈夫?」
「…ダメ。負けたら疲れが倍になった」
あの後、3本のシュートを打ったが、入ったのは1本だけ。結局、負けてしまった。
「…あー…勝てなかったなぁ」
「でも、格好良かったよ。鳴海が真剣にバスケしてるの」
想は、お世辞や嘘の無い、真っ直ぐな瞳で、俺を見る。
まるで愛の告白をされてるみたいに、ドキッとした。
「惚れ直した?」
「そうだね」
頷いた想の顔が、ほんのり赤くて、それだけの事が、馬鹿みたいに嬉しい。
「頑張った甲斐があったな」
たまには、本気になるのも悪くない。
気が付けば、清々しい気分になっていた。
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