君色グラフィティ
□月にまつわるエピソード
1ページ/1ページ
コンビニ袋をぶら下げて歩く、深夜の街。
通い慣れた道も、終電が過ぎた後は、いつもと違った景色に見える。
ポケットの携帯が震えて、画面に【着信:篠宮 想】の表示。
予想通りだと口元が緩んだ。
「あのさ…遅くにごめんね。少し、話いい?」
夕方にメールした時、珍しく、疲れた。と零してた位だから、疲れすぎで参ってるんだろう。
こんな時間に、想が電話を掛けて来るなんて、よっぽどだな。
「いいよ。…っていうか、声聞いたら、想の顔が見たくなった。今から行ってもいい?」
もうすでに、すぐ近くの場所まで来てるけど。
想は仕事、俺は大学で忙しくて、しばらく会えてないから、俺の姿を見たら、どんな顔をするだろう。
楽しみで、自然と歩みが速くなる。
「こんな時間に?もう終電行っちゃったよー。ねぇ、鳴海は今なにしてるの?」
苦笑いを聞きながら、アパートの前に着くと、想の部屋の窓際に人影が見えた。
電波が良くない想の部屋で、電話をする時の定位置だ。
「とりあえず、外にいる。月が綺麗だぞ。想も見てみたら?」
言えば素直にカーテンが開かれ、想が顔を覗かせる。
そして、外に立っている俺と目が合うと、一瞬息を詰めて、2〜3度大きく瞬きをした後、糸が切れたみたいに、くてっと窓枠に寄り掛かった。
「ばか…びっくりしたじゃん…。なにしてんの?明日、大学でしょ?いいの?」
なにって、想に会いに来たに決まってんだろ。大学は、いつもより30分早く起きれば問題無いし。
行儀が悪いのは百も承知で、アパートの前の低いフェンスを乗り越え、窓から想の部屋に上がり込む。
想が難しい顔をしてたから、嬉しくなかった?と聞いたら、ぎゅっと抱き着きながら、そんな訳無いでしょ。と胸を叩かれた。
照れ隠しか?可愛いな。
視界の隅に写る、想の耳が赤い。きっと、顔も真っ赤だろうな。
見たいけど、想は嫌がるだろうから、今日は頭を撫でるだけにしてあげよう。
さぁ、話を聞かせて?
<END>
ちょっとした遊びで、本文中に「あいことば」が隠れています。
お時間あれば、探してみてください。