君色グラフィティ


□どっちも大事
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「こら、想ー!起きろー!」
「っ!!ちょっ…不意打ち!?待っ…!」
「待った無し!」
「ぅひゃあっ…!」

昼休み、日当たりの良い自習室で、坪井と想の、微笑ましいじゃれ合い。
…のはずが。


ガタンッ!!


『うわっ!?』


想が椅子から転げ落ち、つられて倒れた坪井が、想を押し倒すような形になってしまう。

「いったぁー…」

大丈夫か?と言おうとして、坪井は言葉を飲み込んだ。
脇腹をくすぐったまま倒れたために、想のシャツがめくれて、男の割りに細い腰や、白い肌があらわになっている。

(…なんか、エロい)

一緒に野球をやってた頃には、感じたことのない想の色気に、坪井は、想が遠い存在になった気がした。

「お前等……」

呆れきったような鳴海の声に、坪井はハッとする。慌てて視線を移せば、声こそいつも通りだが、明らかに目が座ってる鳴海の姿。
マズイところを見られた。

「……悪い、イスがさ…」

想の上から退き、状況を説明しようとするが、どうしても言い訳くさくなってしまう。

「ちょっと誠吾ー、謝る方が違うんでない?」

鳴海に向かって頭を下げたら、想が文句を言ってきたが、今はそれどころじゃなさそうだぞ。

「想、大丈夫か?」
「うん。平気」
「ったく、くだらないことで怪我するなよ?」

ぽんぽん、と想の頭を撫でる鳴海の顔は、いつも通りに戻っていて…さっきの目付きは思い過ごしか?と坪井は思う。

「はーい。…ほら誠吾、怒られちゃったじゃん」
「想が油断してっからだろー。つーか、オマエ埃だらけ」
「…うわ…手、真っ黒…。洗ってくる」
「おう、行ってこい」

軽く背中を叩いて想を送りだし、鳴海に目をやると…。

「……」

怒ってるーー!!

「…事故だかんな?」
「わかってる。…想の幼馴染じゃなかったら、シメてるけどな」

鳴海は、想の事になると容赦ない。命拾いした。と坪井は胸を撫で下ろす。

「そういや、鳴海さぁ…」
「なんだ?」
「想とヤッた?」
「…なんだいきなり…」

こんな事を聞くのは野暮だとは思うが、想の兄代わりとしては、気になるところだ。

「どうなんだよ?」
「…してねぇよ」
「はぁ!?なんで!?もう1年くらい経つだろ?」

じゃあ想の、あの色気は天然か?タチが悪いな。

「…あいつ、そういうの疎いし。大事にしたいから」

それは分からなくもないが、それじゃあ鳴海は辛いだろ。

「ヤッちまったら良いんじゃねぇの?想がその気になるまで待ってたら、ジジイになっちまうぞ」
「お前が、そう言うとは思わなかったな」
「オレは、オマエ等、二人の味方だからな。どっちも大事。まぁ難しく考えんなよ。なるようになる」

「なんの話〜?」

噂をすれば、想が帰ってきた。

「ちょっとな」

笑ってごまかす鳴海を、想は首を傾げて覗き込む。

「考えすぎは良くないよ?」

そうだな。と答える鳴海の顔は複雑で、坪井は鳴海に同情すると同時に、想に良いパートナーが出来て良かったと思った。


<END>

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