君色グラフィティ


□降り積もる雪の中
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「…寒っ…」

顔に当たる冷たい風に、鳴海は目を醒ました。

「あ、ごめんね」

視線を巡らせると、隣で寝ているはずの想が、窓を細く開けて、外を眺めていた。

「どうしたんだ?」
「雪降ってきたよ」

ニコニコと嬉しそうに、想は答える。
どうりで寒いわけだ。
窓の外の景色は、白に染まりつつあるし、この調子だと、明日の通勤に影響が出るかもしれない。
鳴海が、あまり積もらなければいいな、と思っている横で、想は子供みたいに窓に張り付いて、積もればいいなぁと呟いた。

「積もったら、自転車で行けないぞ」
「歩いてくから大丈夫だよ」
「バスにしとけよ。転んだら危ないから」

あまり積もるのは、楽しみではないけれど、子供みたいに、はしゃいでる想を見ているのは楽しいので、交通機関が麻痺しない程度には積もってもいいかと思う。

「転んだらって、子供じゃないんだから…。ねぇ、ベランダ見に行かない?」
「好きにしな」

そういう所が子供っぽいんだよ。とは声に出さずに、鳴海は再び布団を被った。それを見て、想が小さく笑う。

「鳴海、猫みたい」
「想は犬だな。あ、上着ちゃんと着ろよ」
「うん」





「…いつまで遊んでるんだ?」

なかなか戻ってこない想を心配して、鳴海が様子を見に行くと、想は手摺り等に積もった雪をかき集めて、なにか作っていた。

「鳴海!見て見て、雪だるま!」

掌に雪だるまを乗せて、嬉しそうに振り返った笑顔は、本当に無邪気で、可愛くて、同い年とは思えない。

「おぉ、良く出来たな。…うわ、こんなに積もってるのか。見てるだけで寒くなる…」
「大丈夫?中入ってて良いよ?」

よほど雪が嬉しいのか、そう話す間も、想の視線は、外に積もる雪に釘付けだ。
それが、なんだか面白くなくて、鳴海は想を背中から抱きしめた。

「想、暖めて」

わざと甘い声で囁けば、想の耳が、寒さとは違った理由で紅く染まる。

「っ?!…鳴海っ、外から見えるよ…?」
「誰も、こんな時間に起きてないよ」

それに、この雪で視界も悪いから、回りの建物からだって、そうハッキリは見えないはずだ。

「そうだけど…」

少し、難しい顔をして考えながら、想は鳴海の手に自分の手を重ね合わせた。
その冷たさに、鳴海は、体の芯が、きゅっとなる感覚がする。

「…戻ろう。風邪ひくぞ」
「平気だよ〜。鳴海、暖かいし」

頼るみたいに、寄り掛かられて、思わず、口元が緩んだ。
冗談半分で、想を抱きしめている手を、這わすように動かす。

「もっと暖かくしてやろうか?」

絡み付くような声を、振り払うように頭を降って、想が身をよじる。

「…変な事考えてるでしょ?駄目だよ。明日、仕事なんだから…」

必死に腕を突っ張って、抵抗する想を、抱き上げて、部屋の中に下ろす。

「寝不足も駄目だろ?」
「…うん。…ねぇ鳴海、明日って早番?」

ベッドに入ろうとする鳴海の袖を、想がくいくいと引っ張る。振り返れば、身長差の関係で、上目遣い気味の想がいて…可愛すぎて、軽く目眩がした。

「そうだけど、なんで?」
「じゃあさ、一緒に隣のバス停まで歩こうよ」
「…ホント、好きだな」
「だって、こんな事、滅多にないよ?」

想は、ベッドの上に座って、呆れ顔で寝転ぶ鳴海を覗き込む。まるで、休日の父親に、遊んでくれとせがむ子供みたいな体勢だ。

「雪合戦はしないぞ」

今日と同じように、雪が積もった、高校1年の冬。学校に行く途中で、想を含む数人と雪合戦が始まって、学校に着くまでに、コートがびしょびしょになってしまった事がある。

「あれは酷かったよねー。さすがに、もうやんないよ」
「その言葉、忘れるなよ」
「わかってるってば〜」

今の想の様子だと、ちょっと怪しい感じもするが…。

「ねぇ、鳴海。明日が楽しみだね」

ベッドに入ってきた想が、遠足前の小学生みたいに、目を輝かせている。

「そうだな」

雪が降った位で、こんなに喜んでくれるのなら、来年は、雪国の温泉宿にでも連れて行こう。
そんなことを考えながら、鳴海は湯たんぽ代わりに、想を抱きしめ、瞳を閉じた。


〈END〉

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