君色グラフィティ


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《 ただいま 》

吐く息も白い、1月2日の21時過ぎ。
逸る気持ちを押さえつつ、寮の前で立ち止まり、部屋を見上げる。
さすがに、正月は実家で過ごす者が多いせいか、電気が点いている部屋は少ない。

足早に階段を上がり、自分の部屋を通り過ぎて、隣の部屋の前で足を止める。『篠宮 想(しのみや そう)』と書かれた表札を見たら、寒さと疲れで固まっていた口許が思わず緩んだ。

今頃は何をしているだろう?
チャイムを鳴らして、ドアが開かれるのを待つ。

「はーい!」

早かったんだね。と言いながら開かれたドアに体を滑り込ませ、自分より一回り小さい体を、ぎゅうっと抱きしめた。

「!!冷たっ…ちょっと、鳴海…」

想が、冷えたコートの金具が当たったのに驚いて暴れるので、仕方なく一度腕を解く。肩に掛けたバッグや、コート、マフラーを外したら、再び想を腕の中に閉じ込めた。

「ただいま」

想の首筋に顔を埋めると、俺の好きな、風呂上がりの匂いで胸が満たされ、胸につかえていたモヤモヤが、ため息となって吐き出された。

「おかえり」

よしよし、と頭を撫でられる心地良さに、やっぱり此処が俺の居場所なんだと実感する。

「正月くらい、ゆっくりしてくれば良かったのに」
「2泊もすれば十分だよ。長く居ても疲れるだけ」

そもそも、想に説得されなかったら、実家に泊まるなんて事しなかったし。

「また、そんな事言って…」

まだなにか言いたそうなのを遮るように息を吐き、ぐったりと想に寄り掛かった。

「はぁ、疲れた…」

今は、こうして想とじゃれあっていたい。実家の事は思い出したくもない。

「っ…鳴海、重い…ちゃんと立って…」

困ってる想も、可愛くて仕方がなくて。

「想がちゅーしてくれないと立てない」

もっと困らせてみたくなる。

「な…なに言ってんのっ…」
「ちゅーしてくれないと立てない」

子供のように、駄々をこねたら、想は優しく俺の頭を撫でてくれた。

「……わかったから…ほら、顔上げて?」
「ん」

喜々として顔を上げた俺に、想は少し呆れた顔をしながら軽く唇を落とした。
ほんの少し触れるだけのキスなのに、それでも恥ずかしそうに頬を染める想が、可愛くて、愛おしくて、食べてしまいたいとさえ思う。

「これでい…っんん!!」

だから、無防備な唇に噛み付くようなキスをした。

「…足りない。もっと頂戴」

新年早々、玄関でなに言ってんだか。自分でも、ちょっと引く程、想に飢えてる。

「………好きなだけ、どうぞ」

どちらからともなく、唇を合わせた、新年3回目のキスは、甘く、優しく、体の芯から溶かされるような深いキスになった。


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