君色グラフィティ
□その訳は
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一人暮しにもすっかり慣れて、学校は楽しくて、想と付き合うことになって、今の生活に不満は無いけれど、不安…というか、気になることはある。
「ねぇ鳴海、明日…」
「…あのさ」
「ん?なに?」
「想は、俺のこと名前で呼ばないの?」
こんな事、気にするのもどうかと思うが、想は割と仲の良い人間は、名前や、あだ名で呼ぶタイプで。いつまでも名字で呼ばれると、距離を置かれてるような気がしてしまう。
俺達、付き合ってるんだろ?
あー…と、回りを見渡して、言葉を選びながら、想は口を開いた。
「名字で呼び慣れちゃったのもあるけど…。鳴海、自分の名字嫌いって言ったでしょ?」
「あぁ…」
確かに言った。響きが女の名前みたいだし、なにより家に縛り付けられてるような気がして好きじゃないと。
それを知ってて、あえて呼ぶって、実は嫌われてるんじゃないかって不安になる。
「でも、呼ばれ続けてたら、愛着が湧いて、好きになるかなって思って」
「え?」
予想外の答えで反応できない俺に、想はとびきり優しい笑顔を見せてくれた。
「好きな人には、その人自身の事も好きになってほしいんだ」
想は、いつもちゃんと、俺のこと考えてくれてるんだな。
それにしても…。
「そんな、入学した頃の話、よく覚えてたな」
「え…うーん…。もしかしたら僕も、会った頃から鳴海が好きだったのかも」
嬉しい事言ってくれるじゃないか。はにかむ想が、愛しくて、嬉しくて、この幸福に溺れていく。
「たまには名前で呼んでみようかなぁ…。ねぇ、真幸」
どくん、と心臓が大きく鳴った。
「なに?」
「明日、バイト早く終わるから、夕飯一緒に食べよ?」
「いいよ」
俺の返事を聞いて、想は照れたように笑う。
「やっぱり慣れないと緊張しちゃうね。これからも、鳴海って呼んでいい?」
「想が、それだけ思ってくれてるなら。でも…」
「名前も呼ぶようにするね。…いつもじゃないけど」
「その位の方が、有り難みがあっていいよ」
要は、呼び方の問題じゃなくて、気持ちの問題なんだ。
<END>
想くん、作中で言ってる理由も嘘じゃないけど、なんだかんだ言って、恥ずかしいってのが一番の理由なんだと思います。