只今5月4日、深夜23時57分。後3分程で、5月5日に日付が変わる。
持っている荷物を確認し、獄寺は一人微笑んだ。
驚くだろうか。それともいつものポーカーフェイス?
突然の訪問は、いつもだったら絶対にしない事。ちゃんと前もって行く事を知らせておかないと、多忙な委員長は自宅に居ない可能性が高いから。
しかも今は深夜。真夜中。早起きのアイツはもしかしたらもう寝てしまっているかもしれない時間。寝起きの顔で出て来る姿を想像し、口角を吊り上げながら獄寺はそっと足を進めた。
ゆっくりと腕を上げ、ちょうど目線の高さにあるボタンを押す。
ぴんぽーーん …
静かに響く、やや高めの音。
3秒、4秒…… 扉が開かれる様子はない。
きっかり10秒待って、もう一度腕を上げた。
ぴんぽーんぴんぽーーん …
続けて2回。再び響く高い音。
チラリ、腕にはめた時計を見る。大丈夫、まだ時間はある。
けれどやはり扉が開かれる様子はない。もしやまさかの不安的中である不在か?と、嫌な考えが脳裏をかすめる。
もう一度。
もう一度押して出て来なかったら。合鍵で中に入って不安材料の確認をしよう。
そう決意して再再度指を伸ばした時。
パッと明るくなった玄関。灯された柔らかな光り。
ホッと胸を撫で下ろし、扉が開かれるのをおとなしく待つ。
ふと、そういえば「誰」と一言も問う言葉がなかった事に気付く。それは、ここを訪れる者は自分だけ、という暗示なのか。
思わず頬を赤らめる。
この家は、自分だけが許された場所。彼の私生活に踏み込んでいいと、招かれたのは自分だけ。
心臓が痛いくらい高鳴るのを止められない。
次いで何だか妙に照れくさくなって、首筋を駆け昇る痒みをどうにかやり過ごした。
至極ゆっくり、ゆっくりと扉は開かれる。
完全に開いた先に居たのは、いつもの制服姿な恋人。
パジャマじゃなかった事に少しだけ残念そうにするものの、持っていた荷物を示しながら獄寺は笑った。
「よ、来ちった」
全開の笑顔を見、ため息混じりに閉ざされて行く扉。
一瞬呆けたものの、獄寺は大慌てで扉にかじりついた。かろうじて閉まる直前で止めさせて、もう一度開かせる。
「い、いきなり閉めるなよっ!」
「いきなり来る君が悪い」
真夜中のアポなし訪問。
素晴らしい不愉快そうな顔にやや苦笑しながら、獄寺は時計に目をやった。ちょうどカウントダウン出来そうな、程よい時間。
そっと、自分の中だけでカウントを始める。
10 … 9 … 8 …
「それで?何?」
「や、来たかったから」
6 … 5 … 4 …
「メールくらい出来るでしょ」
「いやー……Sorpresaじゃなきゃ意味ねーし」
「は?何それ」
2 … 1 ……
0時、ちょうど。
「Buon Compleanno! Congratulazioni!」
「え……」
キョトン、とした顔を笑って。滅多にしない、獄寺からのキス。ぶつけるような勢いの口唇を、さすがの委員長は当然ながら上手く受け止めて。
離れて至近距離で見つめ合って。もう一度獄寺は口唇を寄せた。