◆第4幕・Sugar。

□仮
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「なんだネ――近所付き合いも出来ないのかネ…?」
「だから何で!他人の――…」

…あ?
電話、保留にしたままだ。


――くそ!!



「そこ――動くなよ…」


そう――言い残し。

部屋に戻る――と。



かちゃん。


後ろでドアが閉まる音と。


「ネム。その鎖の先を、その…違うヨ、その隙間に――…」
「はい。マユリ様…」


――ちゃりん。

チェーンが掛かった音。


…………………………。


お約束過ぎて――目眩がする。




「誰が上がっていいと――…」
「申し訳ありません…石田様」


彼女が。とても申し訳なさそうに――頭を下げる

「や。あのネムさん、そんな…
別に構わないですから。
外は今にも雪降りそうだし…」

冷気が二の腕に響く。

視界に白いものがちらついても――おかしくない。


彼女の透き通った、その肌が。
青みを帯びて寒々しい。

この、『超インチキ科学者』に付き合って。
一体どの位――この寒空の下にいたのだろうか。


そして、コイツはコイツで…

「何だネ…それならとっとと、部屋に入れ給えヨ!
――のろまな奴だヨ、全く…」

やれやれ。
といった風に溜息をつく。


「お前には言ってない!!」

もう!ほんっとに苛々する!!


だ――大体、

「女の子は、躯冷やしちゃダメだろう!親なら気を使えよ!」

というか。
……………白いふとももが…


「コイツの性別が『女』だと、言った覚えはないがネ――?」

「え――と…それは――…」

ヤツが首を傾げる。

「『男』だ――とも言ってないがネ。何なら――」

自分の目で確認するかネ?


は?


ヤツは彼女の裾を掴むと。
そのまま。

上に。

――ばさあ!!


「うわっ!!」


……………………いや。別に。

期待してないさ。


当たり前だが。

彼女はパニエと。
その下にも――穿いていて。


く。


「大体、何でお前がここにいるんだ!?」

「煩いね小僧!今日は節分の日だろう」


そういえば――なのかな。

恵方巻きの出店があった。
………………………気がする。


節分。
――節分、ね。

コイツが行事にこだわるように――到底思えないけど。


「折角準備してやったというのにだヨ!!その態度は――…」
「そりゃあ――どうも…」

僕はいらないけど。

というか勝手に――部屋に荷物広げないでくれないか。


わ。
土鍋セットまで出てきた!

寛ぎ気か!?人の部屋で!!


「ネム。この瓶の中身を入れるんだよ!」
「はい。マユリ様…」

ドバアッ!!

「え?何この匂い!?
お前何入れたんだよ!?」

「ピイピイと煩いね!小僧!!
説明しないと解らないかネ」

寧ろ説明しなくていい。

勝手にやってくれ。
――そして、帰れ!!


僕の血圧は上がる。





びしびしびし!!

香ばしい匂いと。
乾いた――音。

ああ。
大豆煎ってるのか。



乾いた音は続く。


『済んだら帰る』と言うので。
諦めて、台所を譲る。



バイトが定時で上がり。
遅れがちだった、県大の課題に取り掛かる時間が増え。

――気力が漲っていたのに。



予想外だ!全く!!


集中力を欠くと、編み目のバランスが崩れてしまう。

これ以上。
無駄な気力も体力も。
――消耗する訳にはいかない。


集中。集中。
と。
心の中で唱えてみたものの…

香ばしい匂いに空腹を覚える。


もう――早く帰んないかな。



どれ位経ったのか。


ばらばらばら…
かきんかきんかきん。


煎り終わったのか。



――あつ!!!

襟元に何かの熱。

殺気を感じて振り返ると――…


「っだ!!」

熱い!!!


――何なんだよ!?


「動くんじゃないヨ!!」
「ああ!!??」

豆だ。


ヤツが熱したばかりだと思しき豆を――ぶつけ。

更に第三弾をお見舞いしようと――構えている。

らしい。



な。
「に言ってんだ!お前!?」


「キミは馬鹿かネ。『鬼役』がいなくちゃ――話にならないではないのかネ?」


その、「フー…」って溜め息、止めてくんないかなあ…

「――って、僕が『鬼』!?」
っていうか…


「何しに来たんだ!?お前!」
「何って――節分だヨ」

言い切った。



現世に来た理由。

や。
僕のトコロに来た理由は。

…それか。



「暇なのか!?」


目眩がする。


というか熱だろ、コレ…


何か集中できないと思ったら…


イ――インフルエンザじゃないよな。まさかな。

今、うちのクラス。
学級閉鎖寸前なんだっけ。


そうだ。
バイトが忙しくて、疲れが出てるだけだ。


石田様。

石田様。石田様。


「顔が赤いのですが…」
「え…?」

彼女の声。


「風邪――。下等生物がかかるという…アレのことかネ?」

うる――さい。


反論しようとして。
寒気がしてきた。


悪寒か。コレ。


「石田様?」


額に。
ふと。ひやり、とした感触。


「あ…ああああの!!!」

彼女の手だった。

手。

柔らかい。
気持ちいい。

青い血管が透ける。


彼女の黒い瞳に。
自分の顔が映り――…

――はっとする。



ヤツも居たんだ。


風邪のせいか。
ヤツのせいか。

――悪寒…



そっと振り返る。


ヤツの呆れた顔。


「ふン。俗なヤツだネ!」

つまらないヨ、滅却師。


何が…何を指してるのか…


「石田様、熱が…」
「え…?あ…その…」


ヤツの反応が気になるのと。
彼女の冷たい手の感触が惜しいのと、で――

動けずにいた。



「馬鹿馬鹿しいコトだヨ!全く
――ネム!帰るヨ!」
「はい…マユリ様…」


彼女の手が――額から離れる。

名残惜しい。


手の冷たさが?

それとも――…



ヤツは振り返ると。
大袈裟に溜め息をつく。


「――ネム。コレでも飲ませてやるコトだヨ」
先に行く、と言い残し。
不機嫌そうに――出て言った。


「大丈夫ですか?石田様…」
「あ…ああ…」


彼女は。
自称科学者から――何か包みを受け取ったらしい。


「これを飲まれては?」

彼女の掌にあるのは。
――丸薬…らしい。





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