◆第4幕・Sugar。

□ミントサワー。
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みんなでカフェに行った。

黒崎くんの誕生日を祝った。


イベント予約ということで。
記念に貰った、タンブラー。


瑠璃色の液体が揺れる。
…涼やかな。

鮮やかな、フォトグラフ。



店内の空調が故障して。

大したお詫びは出来ませんが。

――なんて。

帰り際に。
冷たいドリンクを。
一杯ずつ入れてくれた。


少し――得しちゃった。



歩く度に。
タンブラーの中で。


からん。からん。


――氷が歌う。



ライチのクラッシュゼリー。
カシスシロップのソーダ。

紅いソーダ水に沈む。
ミルキーカラーのゼリー。


甘く熟れた果実の。
濃密な香りが――仄めく。




黒崎くんは――確か…




夜風に乗って。

苦くて、甘い。
微かにライムが香って、る。


タンブラーの中の。
淡いグリーンの液体を、想う。




ん。

タンブラーの中身を一口飲む。
黒崎くんの横顔。


こくん。
と。喉が動く。


男の人なんだなあ。
黒崎くん。


そんなことを言うと。

たつきちゃんは決まって。

”…生物学上はね”

――と、返す。




――いいんだ。


あたしだけが。

あたしだけに――見えれば。


なんて。
ちょっぴり、意地悪な気持ち。





今更ながら。
カッコイイな。黒崎くん。


ついつい、じっと見てしまう。


視線に気付いた黒崎くん。
ぎょっとした顔。

「なな何だよ、井上?」
「…え?何でもないよ…」

あはは…とごまかす。


不審そうな黒崎くんの目。



えと。

えーっと…


お。

「美味しそうだ・なー、って」


黒崎くんに見惚れてました。
――なんて言ったら。


シャイな黒崎くんは。
きっと俯いて。
――喋れなくなるから。



黒崎くんは。
暫く考えた風に。
タンブラーとあたしを見て。

「こ、れ…飲む、か…?」

やや、掠れ気味の声で。
タンブラーを差し出した。




え。

あ。


…え?




「――あ・いや……別に…」

黒崎くんが。
困った用に笑って。

引っ込めかけたタンブラー。
――を。
はしっと掴んだ。


「え!何だよ、井上…っ?」
「も・貰います。下さい。飲みたいです!」

――是非!!


両手で引き止める。


「や――分かった、井上!」

飲め!好きなだけ飲んでいい!





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