◆第4幕・Sugar。

□羽虫。
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「――チルッチ…」

チルッチ・サンダーウィッチ。






初めて。

あの声で。

名前を――呼ばれた。




眼鏡を外した眼鏡野郎。

顔。まともに。


初めて――見た。






額から。

一筋。

垂れた。髪。





――ひらひらして。ウゼエ。



チルッチ。

「非常に残念だが、君には」

十刃を――
降りて貰う…ことになった。


薄笑いと。

頬杖をつきながら、の。

淡々とした、通告。



「畏まりました。藍染様――」


アタシは承諾した。






吐き気を堪えて。

――回廊に出た。






なーにが
「非常に残念だが」
だよ。


はんっ。

そんなん、かけらも思っちゃいねえだろ。


社交辞令だけで、『死神』やってたのかよ。
気楽な稼業だな!…オイ!!

こっちはな、無限に続くような苦痛味わったんだぜ。

想像も――つかねえだろ。






十刃落ち通告に。

――ホッとした。





長い回廊を。

自分だけの足音が鳴り響く。


かつんかつんかつんかつん。



もう。

かつんかつんかつんかつん。

この回廊を。

渡って。

あの野郎に。

会いに行くことも。





そうそう――ないだろう。




せいせいする。



白い。

長い。

回廊。






アイツが笑ってる、あの部屋ヘと――続く。

回廊。






この回廊を、通る度。




あの眼鏡野郎の顔が。

あの顔が。

――ちらついて。





…苦痛。


そうだ。苦痛、だ。




カツン。





忘れてた。

もう一匹――いやがった。






何か御用でしょうか。

「――市丸、さま」




あァん?笑いにきたのかよ。
…テメエも大概、暇人だなあ。コラ。

この狐野郎が仕事してんの、見たことねえぞ…



――チルッチちゃん。

「その――ガン見、止めてもらえん?」

折角の可愛ええ顔、台なしや。



っせえな!
口減らねえし。

コイツの上官。
あのクソ野郎じゃん。

部下の育成指導能力なんざ、たかがしれてんな。


「さっきから黙り込んで――どないしたん?チルッチちゃ」
「何か御用でも?」

んー…
「別に何もな」
「失礼します!」

回れ右。

帰る。

と、思ったら。目の前に狐。



…瞬歩かよ。

ムカつく。


チッ。
「どのようなご用件でしょう?市丸、さま?」


ご用件、というか――

「そんな顔、してるから…」
声…掛けてみただけや。



そんな顔。
…どんな顔だよ。

コイツの言葉は通用しない。

帰らせろ。



「チルッチちゃん」

ッセエよ!!


「そんなアタシの心配してるんだったら、ご自分の心配したら如何なんですか!?」

この狐の女は――確か…死神。



「…いいのかよ!」
こんなトコで。

「もう、アンタの事なんか――忘れられてるんじゃないの?死神の女に!…敵じゃんよ!!」

他に誰か男出来て――忘れられてんじゃないの?






回廊に。

残響。





狐野郎は。

途端に。



顔から笑みが――消えた。


「かも――しれんなあ…」

ぽつり。呟く。





アタシの怒鳴り声よりも。

静かな一言は。



嘘のように。

回廊に――響いた。




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