◆第4幕・Sugar。

□Honey。
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日番谷の。
一瞬…しまった――とでもいうような顔。

「別に…構わん――」
仕方のない、ことだ。



「"用"、ってのは――この"菓子の山"のコト、か…?」

日番谷が些か慌てたように――指を指す。


「ああ――…今朝方、焼いた分だ。
好きなだけ――持って行くといい…」


「――そうか…」

ここで、少し食ってもいいか?
…と、日番谷が問う。

「別に構わないが…」
「もう…お茶の時間だからな」
今、隊舎に戻った所で、茶汲み担当もいねえし――と、嘯いた。


――気を使われているのだな。
と、悟った頃。



…ガラガラガラガラ…

何か――車輪の音。


ウィィ…ン…
――自動ドアが開く。


「失礼致します…」
恭しく入ってくる男は。


『英国文化』にハマり…"英国紳士になりたい"と、服を改造し。
"西洋文化を広める"ことに――勤しむ男。

「雀部…その食器…」
「ワゴン…とやらに乗っている、それは…?」

銀色や白磁の食器が眩しい。


「光栄にも、砕蜂隊長より、ティータイムにお誘い戴き――…」
この雀部、僭越ながら本場の紅茶をご用意致しました。

雀部は、穏やかに――笑む。





丸みを帯びた白磁に。
鮮やかな紅の花。
緑。


美しい。

「これは――薔薇、か…?」
――何となく…高価そうな食器群。

「良く分からねえが…洒落てんな…」
日番谷が呟いた瞬間。
――雀部の顔が輝いた。

「流石は日番谷隊長、お目が高いですな!――こちらは英国製品ではなく、独逸・ウィーンのものですが――…」



嬉々として語る雀部――山本総隊長の隣にいる彼と同一人物とは思えない。

というか――"和"を愛する山本総隊長の隣で。

『英国紳士になりたい』

…等と平然と宣う彼。
――もしかしなくても、豪胆なのではないだろうか…

取り敢えず。
こんなに生き生きとした雀部を見たのは――初めてだ。


日番谷と共に、呆気に取られていると。


ウィィ…ン…

再び――自動ドアが開いた。



巨体と黒のサングラス――が視界に入る。

「失礼するぞ…」
「ご相伴に預かりますわ」

狗村と射場か。

「丁度、雀部から…紅茶を馳走になっていたのだ――座るといい」
席を勧める。



「紅茶は2種類、ご用意致しましたのでな」
――どうぞ。

チャイという――ミルクティーにスパイスを入れた紅茶。
アッサムという――コクのある力強い味わいの紅茶。


「金芽が…沢山入ったものを選びましたのでな。ミルクを入れても宜しいですぞ?――まずは、何も入れず…ストレートで味わってみて下さい」


私はアッサムを一口頂いた。

――苦くない…
砂糖なしでも、ほんのり甘い気がする。

雀部と目が合う。

「紅茶は…きっちり時間や分量を計り、レシピに従って淹れると――格別に美味なのですよ…」
雀部がそう言って――自分も一口啜った。

満足げだ。




射場がニヤリと笑い。
後ろ手に持っていた何かを掲げた。
「こんな寒い日は…どうじゃろか?」
――って、射場。
まだ、明るいのに酒か。

「うちの隊舎で…酒盛りする気か…?」
「…射場、寒いのは分かるが――まだ早いのではないか?」
狗村がやんわりとたしなめる。

「松本も一角も――呼ばねえからな」
日番谷は"介抱役"を放棄する。

雀部が苦笑する。
「同じ酒なら――ブランデーは如何ですかな?」

雀部が紅茶にブランデーを――カップに多めに――入れる。


「ほう…ええ香りじゃのう…」
「射場。程々にな?」
狗村が笑う。

雀部が笑う。


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