◆第3幕・虚圏編。
□虚夜宮の明けない夜明け・1
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「…あのね、市丸くん…今ね、ミーティング直前なの。
…分かる?」
「せやねえ。――1分前…
あ。今…丁度10時になるトコやのになあ…皆どないしたんやろか?」
や。
それもそうなんだけどね…市丸くん――
10:00
「確か…『虚夜宮』には、食堂も設置したハズだが――どうして皆、朝、そこに寄って来ないんだろう、ね?」
「やって――食堂、不味いんやもん!」
ズバリ。
「…朝っから、あんなん食うたら、めっちゃダウナーやんか。その日一日最悪やわ!…ホンマに…。人事担当、誰や!?」
…………。
――キミ…随分と――ハッキリ言うね…。
朝マック組は――そこまで言うつもりはないらしく、目を逸らして手元を見詰める。
――大人の反応だ。
…松本は、一体どうやって、このワガママな――というか、駄々っ子狐と一緒に生活していけたのか…
全く以て…謎だ…
…………。
…Mなのか、松本は?
――そうだったのか…
同僚の――『元同僚』、ではあっても…異性関係/趣味・嗜好に口を挟むようなことは…『ビジネスコンプライアンス』云々がやたら叫ばれている昨今、危険なことだが…
…やっぱり男の趣味、変だぞ?――松本…。
…………。
今、真剣に考えるべきコトは、そっちじゃない。
何かもう…やっつけ仕事的に、ずっと徹夜でアレコレ手配してたから…疲れてるなあ、もう。
何だっけ。
…………。
――ああ、食堂か。
確かにモチベーションが下がるのは宜しくない。
福利厚生の充実も大事だし。
…………。
――なんっか、…気分は中小企業の社長だぞ…
「――こないだTVで観た会社なんかなァ…社員食堂に”お抱えのシェフ”がおるんよ!」
「シェフ!?」
「…それ、”世界の社食から”ですよね?
観ました観ました!」
だ―――――っ!
「――分かった…とにかく善処するから」
…全く――
ガタンッ
「…っしゃーッッ!!」
な、何!?今度は誰!!
…………。
…何て…名前だっけ?
黒髪長髪で、目付きがいかがわしい感じの男は…
え、と…?『ノイ』とかなんとか――
あのイヤホンは…ラジオか?
つかつかつかつかつか。
ぐい。
”――っと!
ここで『審議』です!!
着順掲示板、『審議』のランプが灯りました!!”
…はあ!?
”…東京競馬場、第1レース、2着ウラヨルタイオウ号は、後続の馬の進路を妨害したとして、現在、『審議中』です。着順が確定するまで、お手持ちの”勝馬投票券”は、お捨てにならないで下さい――…”
――…あの…アナタ…何、聴いちゃってるんですか…?
「……チッ」
ふて腐れて、身体を後ろに投げ出すようにして…座り直す。
『ノイ何とか』っていう男…ホントにカンジ悪いな。
満員電車とかの長椅子で、2人分位…一人でスペース、ブン取って座ってそうな感じだ。
…誰だよ。
コイツの採用人事担当は。
…頭痛い。
「あの…今の、は…?」
「へ?競馬ッスよ。競馬中継。…藍染様、もしかして知らないんですか…?」
…………。
「…や。私は競馬とか、ギャンブル関係は一切やらないから――」
じゃなくて。
「何か…こう、『アツクなれる趣味』は、持っといた方がいっすよ?」
…………。
…いや、ココは説教される場面じゃないからね!
「…あのね、ノイ…くんね」
「ノイトラ、っす」
「……ノイトラくん…今はね、朝のミーティングなの!」
「…だって、俺…日曜は競馬なんすよ?」
…………。
「…悪かった…休日に緊急ミーティング開いたコトは」
…でもさ、今、会議の時間だよね?
世間一般的な社会人としては、会議中に携帯電話いじったりするの、ってマナー違反じゃないの!?
「…ノイトラ」
「な、何だよ!?」
今まで周囲の状況に、全く無反応で沈黙していた――ウルキオラに突然、名指しされ…ノイトラの身体が…ビクリと3cm程飛び上がった。
…威圧感あるなあ…。