◆第4幕・Sugar。

□仮
1ページ/3ページ




石田さん、お宅のドアの前に…
何か――変な人いるんだけど。

あたし、もうそろそろ出勤する時間なんだ――

悪いけど見て貰えないかな…



――という隣家からの電話。



「変な人――ですか…?」

沢山変なヤツと知り合ってる。
――ここ短期間で。



「――警察に通ほ…」
「すいません見てみます!!」

胸騒ぎがする。


編物の手を止め。
ドアに向かう。


ドアに手を掛ける。

と。
微かに静電気。


――冬だなあ。



ドアの窓から外を見た。


ん?
見えないな。


そのまま。
ドア前を通り越し。

どんよりと曇った夜空。


チェーンは掛けたまま。
取り敢えず開けてみる。


来客の予定なんて無いし。

嫌な予感がする――けど。



ドアノブを握る。


ひやりと、冷たい…

うわ。
嫌だな、この寒いのに――



5センチほど開けた所で。



「わ…!!」

くん!と、外側に引かれた。



どん!と、何かに顔を打つ…




何だ…!?

布地。
多分この感触――は。

それに。

クレゾールのような。
消毒液のような。
ミントのような――匂いが…



「何だネ?熱烈大歓迎かネ?」


く。
この耳障りな声――は…


「…な――なな何してんだよ!
――涅マユリ!!!」


例のメーキャップはそのまま。

お隣りさんが、幾ら夜の街でのご商売とはいえ――これは…



「――黙れ外道」
「こ…この――…」


何と罵倒してやろうか――!!

と――思っていた時。



がちゃ。
隣の部屋のドアが開いた。


「あら。お知り合いだったの」

多分様子を伺ってたのだろう。
――お隣りさんが出てきた。

これから出勤らしい…


「あ――その…」

説明に困る。


甘く絡みつく匂い。
――クラクラした。


昔、この香水が流行した頃。
レストラン等で、

「香水を付けた方入店お断り」

という断り書きが。
あちらこちらで、見掛けられた――らしいけど。



「これはこれは――お騒がせをして済まないネ…」

は?


ヤツが隣に挨拶。
――というか。

…………………………………。


挨拶――だよな…


挨拶?
コイツが挨拶、だと!?

――何だ!?
この低姿勢ぶりは!!


「ネム!ご挨拶するんだヨ!」
「はい。マユリ様――…」


つまらないものですが。


菓子折り??



ヤツの肩ごしに彼女の姿。

あまり愛想は無いが。
お隣りさんに、何やら紙包みを渡して――いる。


「わざわざ、ありがとう!気ィ使わなくていいのよ!」

と陽気な声。
意思の疎通は――大丈夫かな。



「石田さん!あたしお店だし。
お友達と騒いでも大丈夫よ!」

我に返った。


あ――あの!!


「ごゆっくりね」
と投げキッス。

「あ――ども…」

何も言えない。



ヒールから伸びた逞しい脚。

鳶職時代の癖なのか。
菓子折りを肩に担ぎ。

暗闇の中に消えて行った――


「『プワゾン』、って香水――まだあったんだな…」

最近嗅がないな。



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ