◆第4幕・Sugar。

□STRAY CAT.
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闇に紛れ。
息を潜めてやってくるだろう。



こんな新月の夜は。






ピンクの獣――が。








†STRAY CAT.












ひたりひたりと。
気配を消して。


気がつけば。


ほら。

闇の中から手を伸ばし。



アタシを。
背後から――抱き竦める。

しなやかな、腕。






「気配消して来ないでくれる」
気持ち悪いわね。

グラス落としそうになったわ。


手元のスタンド。
光量をMAXにした。




「――楽しいだろう?」
「楽しくねーよ」


耳元で笑う。

ヤなカンジ。




後ろから。
抱き竦められたまま。

軽くステアした液体を。
フルートグラスに注ぐ。



「何それ?美味しいの」

答える間もなく。

注がれたばかりのそれは。
一気にヤツの喉の奥。

グラスから殆どが消えた。



「……………………最悪ね」

グラスの奥。
僅かに残ったそれを。

未練がましく――揺らす。



「君が?」
「ア・ン・タ・が」




くつくつと彼が笑う。


「趣味が悪いのは、お互い様」

――だろう?



そう囁いて。
背後から顔を窺うバカを無視。

何の話な訳よ?


グラスの残りを飲み干す。

チッ!
――ひと口分だわ。





でもさ。
「僕のこと待って、た――」

――よね?



背後のバカが含み笑い。


「こんな暗闇ン中。一体何処に行くってのよ?」
「寝てても良かったじゃない」


ハッ!
「寝てたら…アタシ、アンタに何されるか解んないわ」
「起きてても、するけどね?」


しゃあしゃあと言う!!



腰に回された手がきつくなる。

調子に乗んな。

バーカ。バーカ。




「作るわ。どうせアンタ、また人の狙う気なんでしょ?」

溜め息。

グラスを自分用に用意する。



「ほら言いなさい。何色よ?」
「キミ、色で飲むの?」

背後で苦笑い。


そうね。
「気分よ。――あ、このミントあげる☆」

問答無用で。
ミントリキュールをシェイカーにブチ込む。

ライムを足し。
テキトーに酒。




「今何入れたの?」
「飲めればいいんでしょ?」


ステア。

グラスに注ぐ。


綺麗なグリーン。

香りもいい。





「――はい」

テーブルにグラスを滑らせ。
背後のピンク頭に差し出す。



「緑は気分?」
「目に優しいでしょ?ほら。
――アンタの頭と正反対で」

自分の分――先程横取りされたものと同じもの――を作る。


グラスに落とし。
さあ、飲もうか。

なんて――思ったら。



「さっきの分、少し返すよ」

あ!このバカ!!


バカは自分のグラスの中身を。
アタシのグラスに注ぎやがる。


「誰が飲むのよ!これ!?」
「誰――って、キミだろ?」


バカ野郎。

ああ!もう――何かヤな色。


「味的には――飲めない味って訳じゃないだろ?
ミント+ライム+カシスだし」

じゃあ、自分のでやれ!


「飲めればいい、んだろう?」
「――黙れ!!」


自棄っぱちに飲み干す。

飲めなくは――ない。


「…………………男らしいね」
「だから黙れ」


カクテルはこんな乱暴に飲むものではないわ――多分!!

コイツにやらせたら。
ニコラシカ。
塩とすり替えるに違いない。


「僕…今、緑は気分じゃない」
「は?」

何か耳打ちしてきた。


「ちょ…何なの?」
「ホント」



酒マズくなる。
――寝る。


「帰って」
「もうちょっと構ってよ」


聞き訳が無さそうなので。

腰にバカの手が絡んだまま。
ベッドへつかつか向かい。

強引に体制を変え。

バカが態勢を崩した所を。
ベッドへ無理矢理背面ダイブ。



ヤツごとマットに沈む。

というか。
ヤツをマットに沈めた。


「鼻打ったじゃないか…」
「アラそう?」



「たまには――強引に誘われるのも、嫌いじゃないな」
「黙んな!」

何時誘ったんだよ!!


手が緩んだ隙に。
バカの腕から逃れ。

隣へ転がる。


「も、アタシ寝るから帰って」
「そう言わずにさ」

背中に体温。
ちょっと重いし。

だから何で、人のベッドの上で寛ぐのよ!


一人で気持ち良く飲んでる所。
邪魔しに来やがって。

不愉快な話、聞かせやがって!



一向に帰る様子もない。

それどころか。
隣で船漕いでるよ。



あーもう!
「自分の宮、帰って」
「昨日…寝て…ない、んだ…」


忘れたいの?
バカな話に乗った、って。


「アンタさー、あんまり酒強くないんでしょ?」
「んー…そう…か、な…」





すぐ後ろで寝息。


バーカ。
後悔する位ならやるなよ。


ベッドから。
蹴り落としてやろうか――とも思ったが。



気が変わった。


ベッド大半を占有しやがって。

人に泣き言なんか言いに来て。


アンタがやりたかったのは。
他人のケンカの延長みたいな、下らないコトじゃないだろ。



アンタが酒飲む時って。
ろくなコト無いんだよね。



「たまには美味しい酒、飲ませなさいよね!」


アタシは、背中のロクデナシに向かって毒づく。


コイツは嫌いだけど。
コイツの体温は嫌いじゃない。






END.


20090107






なんか嫌なコトがあるときは
チルッチのトコに来るザエルくん。

今回は、ノイトラくんに頼まれてネルちゃん達を…

――ってヤツ。


チルッチちゃんは甘やかすタイプじゃないの判ってて。

だから非難して欲しくて来る。

みたいな。

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