◆第4幕・Sugar。

□ディオラマ。
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「――その、花…いっそ、栽培してはどうだ?」

あ。そうか。虚園では…


「んー…無理やろ、な」



すまん。…失言だ。


――ええよ。別に…





明るい陽射し、が、欲しい。


「薔薇は、なあ――育てんの、難しいんよ…」

…以外と、神経質やし、なあ。





ゆっくり、と。



その。

緩い、カーヴ。

を。





なぞって――味、わう。





指先の腹に。



緻密な。


――冷ややか、さ。





伝わる。
仄か。な。体液。

の。


存在。感。





盲いた彼が…幾分考え込み――

は、っとして。


僅かに。
顔を…赤らめた。



そして…照れ隠しのように。
慌てて、

――尋く。


「その花――薔薇、か。

名は…何と云うのだ?」



んー…

「よく――分からんわ」

…忘れてしもたなあ。




それは喩えるなら陽光。


抗えない引力。

後ろめたさも含め。

包括。してくれる、




甘やかな――…


「なかなか――良い、芳香だ」

「せやろ?」

多分。

ティーローズ系、や。

…あれ?

ちごたかなあ…




いや――尋いてみただけだ。

「…豪奢な香りよりも、ずっといい。

――穏やかな…心持ちになる」


「…せやね」




ところで。

「刺は、――取らないのか?」

貴公、傷だらけではないか。





んー…?

「刺も含めて――」

――この花、やし…なあ。



そうか。

「…そうだな――」


幾分。口元を綻ばせて。
…彼が、静かに――笑む。



――もう…時間だな。
失礼した。

「貴公の部屋の前を通ったら…
…あまりにも――良い芳香が、漂っていたので、な。」

…気になったのだ。


別に――かまへんよ?




立ち去ろうと、し、て…
彼の足が――止まる。




本当に――

良かった、の、か?

「――市丸。」




な、に、が。

「――何の話、や?」

主語。
抜け取ったら、分からんわ。




ここ、に、来て。

「貴公、本当は――…」




真っ直ぐに。

何も映さない筈の瞳を。

…向けられ、た。




「…だから、分からん。て…」



「ここ、に――」




「――そ、れは…」


それは。

無理やろ、――なあ。


苦笑。

或いは。自嘲。




「――許せ。」

残酷な事を――申した。



「ええて。気にしなや」




こればかりは――なあ。






静謐。

甘さ。
というには。


…幾分。冷ややかだ。


指先。を。
幾つもの。刺が。


手にする度。
幾つもの。刺。が。

癒える間もなく。

刺が。

傷。が。




――刺も含めて。彼女や。




彼女が。
彼女の。

好んでつけた。香りに。近い。




とろける。ような。陽光。

溢れる光。



――眩しすぎたなあ…





握りしめた、花。


今までより、深い。




――痛み。




「――…っ…」


刺が刺したのは。

指先か。


それとも――





床に雫。





ここ、では。

――手折られてまうなあ。





矜持。

想い。

願い。


それだけでは。

何も。

誰、も。


――護れませんなあ。





世界は。
思ったよりも。
ずっと――

残酷に――できている。



己の無力を、思い知るがいい。





いつか。
ここの空気に晒されて。



何もかも。



自分さえも。

ひび割れて――ゆけ。






――本気で、願った。




END


20070810
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