◆第4幕・Sugar。
□寒果実。
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「酔うとるの?」
「そんな訳ないでしょ!」
「何か――変やもん…」
「――何でもないわ」
明後日の方向を向いたまま。
言ったところで。
説得力はなくて。
ギンは困ったように――曖昧に笑いながら。
「嘘言いなや」
とアタシの顔を覗き込む。
――困る。
何か。
胸の中に。
針を一つ。
潜ませたような。
時折。
ちくりちくりと。
振れて――痛むから。
寒果実。
「甘酒で…酔う訳ないでしょ?」
"アルコールは入っておりません"って書いてあったし。
「せやねえ…まあ、入ってたとしてもなあ…らんは――"笊"通り越して、寧ろ"枠"やし…」
「そこまで底なしじゃないわ!」
「でも。ボクが楽しみに作っといた…"コケモモ酒"、"カリン酒"に"杏酒"…みいんな、らんが一人で飲んでま――ッたあッ!!」
何気無く。
重心を掛けて――足を踏みつけると。
狐が、大袈裟に飛び上がった。
周囲にいた参拝客が、クスクス笑ってる。
…注目の的だ。
「恥ずかしいでしょ?やめてよね!」
「酷っっ!!」
ボク、何もしてへんのになあ…と、狐がぶつぶつと一人ごちる。
銀の髪をした和装の男。
銀糸が藍色に映える。
…注目の的だ。
一見柔和な――笑み。
何処かの…老舗の若旦那――とでもいった風体。
狐は、ムダに…見映えがする。
心の中で、溜め息。
拗ねて、砂利を蹴るバカ狐を…振り返る。
ほら。
今も――また。
擦れ違った女の子たちが。
"モデル、かなあ…?"
"写真、撮りたいねー…"
やや、頬を紅潮させて。
そんな風に。
女の子たちが――ギンを見て…はしゃぐ場面を目の当たりにするのは。
一度や二度ではないから。
針が。
ちくりちくりと。
…振れる。
"優しそうだよね、彼氏…"
…全っ然、違うわ!
優しくなんかないわ!!
心の中で絶叫しながら――つい、その女の子たちを――振り返ってしまった。
びくり!
――女の子たちが、目を見開いて、驚いている。
"や…やだ。聞こえちゃったかなあ…"
"きょうちゃん、声がおっきんだよ!!"
――聞こえてるわよ!アンタたち…
"美人だけど――"
…怖そう、なカンジだよね!
そう囁きながら。
女の子たちが、小走りで参道へと――駆けて行った。
怖そう。
怖そう、って――…