◆第4幕・Sugar。

□Honey。
1ページ/7ページ


「す――砕蜂、た、隊、長…っ!!」
――光栄であります…っ!!

円乗寺が赤い顔で受け取る。

「オイ…円乗寺ィ…
――昨日から9個目だろォ!?」

大前田は、昨夜から今朝にかけて…約3個半を平らげた所で――ネをあげた。


"個"という単位は正確ではない。
――正しくは…"ホール"、というらしい。


「断れよ!何そんなムキになってんだよ!?オメーは!!…別に断っちまっても、いいんだぞ!?」
「な、な、何をおっしゃいますか…っ!?」
円乗寺が顔の赤みを更に濃くすると――上擦った声で、高らかに宣言する。

「円乗寺辰房!砕蜂隊長が、直々にお作りになられた――このお菓子!有り難く頂戴する所存であります!!」

ケーキ箱を恭しく掲げながら、深々と頭を下げる。

芝居がかった振る舞いと、間近で必要以上に大声。

一歩、後ずさる。


「――いや…大前田の言う通り…別に構わないぞ?」
余程の――甘党なのだろうか?

円乗寺は、滅相もございません!!と、ひたすらに畏まる。

一昨日から、繰り返された会話。

いい加減少しウザくなり始めた頃――まるで、見計らったかのように――円乗寺宛に、地獄蝶がやってきた。

多分――七緒が気を効かせたのだな。


「し…失礼します!!」


ウィィ…ン…

自動ドアが開くと同時に円乗寺が駆け出す。


ガゥ…ッ。

「ぎゃ…っ!!」


勢い込んで、足の小指辺りをドアにぶつけた――らしい。

「バカ野郎!人ントコの隊舎、壊すンじゃねえよ!!」
「…す、すいません…っ!!」

よろけながら遠ざかる、円乗寺の後ろ姿を――一通り見送った。



大前田は、呆れたように溜め息をつき。

続けて――ばりん!


…パラパラパラ…


大前田が、油煎餅を勢いよくかじる――と…頭上から、煎餅の欠片が降ってきた。


「――大前田…」
「ふぁ?ふいまへんへ、たいひょお…」


口を開けるな!!
――と、思う間もなく。


ぼろぼろぼろぼろ…

「……………く…っ。」
続けて落ちてきた欠片を払う。



「まだ…貴様の胃に入る余裕が――ありそうだな…?」
ちらりと背後を振り返る。

「か…っ、勘弁して下さいよォ!煎餅は、ケーキとは…入る所が違うんスよ…っ」
「"別腹"を、お前が語ると――不気味だ…」


煎餅の方が別腹か!?

「へいへい。不気味で結構ですよ…」
――大前田が面倒臭げに返事をする。


今更ながら可愛くない。


話を逸らすように。
「この2つ――檜佐木んトコに、ですかい?」

既に本人が――先程取りに来たが。

「そう――だ、な…」
あの万年金欠男に…また持って行って貰うとするか。

給料前の今。
ヤツなら、2つ返事で受け取ることだろう…


「じゃ!オレ…行ってきますんで…!!」
大前田は、ケーキ箱を両脇に抱えると。

――そそくさと…自動ドアの向こうに――消えて行った。



逃げたか。
――わざとらしい奴め。




残りのケーキの山を――さて、どうするか、と――見詰めていると。


ウィィ…ン…
――自動ドアが開く。


視界の端に銀色。

「邪魔するぞ――」


…うん?

「日番谷…直々に、か――松本はどうした?」

ああ。
「松本は…午後から非番で、井上のトコに行った。"現世のクリスマス、とやらを堪能したい――"、ってな…」
面倒そうに…日番谷が頭を掻いて答える。

そうか…。


現世、か――…




――ズキ、…ン。



…心臓の辺りに。
痛みが――響いた。




Honey。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ