凛の瞳 本文

□14
1ページ/4ページ



休日の早朝にもかかわらず沢田家の台所はとても賑わっていた。
美味しそうな匂いの漂う中、私はご飯をせっせと丸めては重箱に詰めていく。

今日は並盛中の体育祭の日。しかも、ツナ君が了平さんの推薦で棒倒しの大将をやるらしい。


「あーっ!ランボちゃんつまみ食いはダメです!」
「つまみ食いじゃないよー味見だもんね!」
「アハハ。ランボ君、今食べたらお昼ご飯入らなくなっちゃうよ?」


私の言葉でランボ君は慌てて口に入れかけた唐揚げを元に戻した。
手伝いに来てくれたハルちゃんはもぉーと呆れ顔で、でも半分楽しそうにランボ君を見つめる。

そこへ得体の知れないボウルを片手にビアンキさんが近づいてきた。


「メイ、ちょっと味見てくれないかしら」
「――え?わ、私がですかビアンキさん……」
「他に誰がいるのよ。大丈夫、愛は込めたわ」


何が大丈夫なんだこの人は。
どう切り抜けようかと冷汗をたらしたそんな時、台所の引き戸が控えめに開けられた。


「あらおはよう、総大将さん」
「ツナさん!グッドモーニングです!」
「なー!?みんななんでいるの!?」


寝起きのパジャマ姿なツナ君が寝癖を揺らしながら素っ頓狂な声をあげた。
助かった。私はどさくさにまぎれてビアンキさんから離れツナ君の元へ寄った。


「おはようツナ君。今みんなでお弁当作ってたんだ」
「今日は特別な日でしょ?みんなで応援に行くわ」
「ツナさんの大好物たくさん作りました!」
「いや、あの……」


しどろもどろするツナ君を「ホラホラ、総大将が遅刻したらどうするの」と笑顔で洗面所へ追いやる奈々さん。
されるがまま部屋を出ていく彼だったが、その横顔が何故か妙に元気がない気がした。
気のせいかな?昨日練習しすぎて疲れちゃったとか。

ちょっと気になりつつも口には出さず、気を取り直して私は再びおにぎり作りにとりかかった。




体育祭が始まった頃、私たちは並中の正門を潜った。
既に会場はヒートアップしていて生徒達の歓声が激しく飛び交っている。
天気は快晴、絶好の体育祭日和。
一番前の列にシートを敷いて一息ついたところで、急にハルちゃんが声をあげた。


「メイちゃん!あれ、山本さんじゃないですか?」
「えっ?」


立ち上がって遠くを見つめるハルちゃんの後に続いて立ち上がり、スタート直前のと競争レーンを端から順に目で追う。
外側から二番目のレーンに「A」と記されたゼッケンを来た山本君が立っていた。

立ってるだけなのに、うわ……何か格好良い。
様になっているというか、ちょっと不覚にも胸が高鳴った。


「山本さーん!頑張ってくださーい」


大きく声援を贈るハルちゃんに気が付き、彼は愛想の良い笑顔で手を振り返してくれる。
一方私はというと、応援もせずにただボーッと見とれていただけだった。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ