狼少年

□過去
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〜アイツは突然やってきた〜




"ゆりかご"の起こるもっと前、ちょうど俺が義手の左手に慣れて間もないころのことだ。
任務に出かけようとした俺の目の前にボスがやってきてこう言ったのだ。


「子ザルが一匹ふえたぞ」


ボスは右手につかんでいた大きなかたまりを無造作に放り投げる。それはドサッと音をたてて床に転がると、うっと小さく鳴いた。
かたまりは人だった。両手両足を縛られた俺と同い年くらいの少年だった。
少年は頭から血を流しているものの、恐怖とか不安とかそういったものはいっさい感じられない目をしていた。


「う゛おぉい、どういうことだクソボス」
「ハッ面倒みとけカス鮫」


ボスは憎たらしく鼻で笑いながら部屋を出ていった。う゛おぉい、俺はこれから任務だぞ!?
残された俺とどこの馬の骨(サルか)だか知れない野郎のあいだにしばらく気まずい沈黙が流れる。


「――あのさ、」


さきに沈黙をやぶったのは奴のほうだった。


「この縄、ほどいてくんね?」


まったく緊張感の感じられない苦笑いをむけられ俺は一瞬ひるんだ。
コイツ怖くねえのか?この状況でなんで余裕ぶっこいていられるんだよ。それともあれか、頭が弱えのか?
俺は内心驚きつつも少年の言葉を無視し「名乗れ」と一言呟く。少年はひるむことなく返答した。


「ジンだ。よろしくな、えっと……カス鮫?だっけ」
「う゛おぉおい!」


とりあえず初対面ということもあって手へ出さないでおいたが、次言ったら三枚におろしてやろうと誓った。

これが奴――ジンがヴァリアーに初めてやってきた時のことというわけだ。


ジンはその後、ヴァリアーの新入りとしてボスから正式に発表された。
詳細はほとんど明かされなかった中、唯一わかったのは、奴はヴァリアーに暗殺された敵マフィア幹部の息子だということだけだった。
この公表があってから隊員からの猛抗議が絶えなかったのは言うまでもない。


「そいつは敵マフィアからのスパイに決まってる!」
「いつしか恨みをつのらせ裏切り行為に走るぞ!」
「そんな奴を隊に入れるなんて反対だ!」


疑う隊員の声にも一理ある。だが、ボスはそれすら一言で黙らせたのだ。


「不用になったらテメーらで始末しろ」


ボスにこう言われちゃあさすがの隊員たちも口をつぐむしかなかった。


一方ジン本人はというと相変わらずの緊張感のない声で「よろしくな」と笑顔をふりまくだけ。
だがカタギの世界では好印象な奴のふるまいも、ヴァリアーでは気味悪がられるだけだ。入隊して早々ジンはひとりぼっちになってしまった。
それなのに懸命なのか鈍感なのか、奴はめげずに笑い続けた。嫌な顔一つせず誰にでもニッコリ笑いかけた。それが不気味でますます遠ざかれていたように思えた。

隊員たちはジンをあからさまに毛嫌いしたが、特にレヴィの蔑み方は異常だった。


「ヘラヘラしおってあの小僧。ボスの機嫌でもとろうとしているのか」


ボス命のレヴィにとってボス直々に連れてこられた新入りというのが気に食わなかったらしい。
屋敷の廊下でジンとすれちがう度に憎しみの目線を送っていたのを俺は何度も見かけた。

だが実の話、奴に最初に心を開いたのは意外にもレヴィだったりする。


「今日の任務はツーマンセルで行う」


ある日のこと、隊長の俺の合図で隊員が次々と組を形成していく中レヴィはだんまりと立っていた。
ツーマンセル――つまり二人一組で行う任務のとき、奴は雷撃隊の長であるにもかかわらずいつもあぶれてしまっていたのだ。
テメーでは気づいてねえが、奴もジンに負けず劣らずハブかれていたからな。何故かは知らん。キモいとか、どうせそんなんだろ。


「なあ」
「ん?」
「俺と組まねぇか?」


その日も誰からも声をかけられず半べそ気味だった奴に、果敢にも声をかけたのがジンだった。


「なっ誰が貴様みたいな嫌われ者と……」
「いいだろ。見た感じお前も嫌われてるみてぇだし、な?」
「ぬっ!」


いっけん傷口に塩をぬっているようにもとれるが、レヴィにとって初めて自分を誘ってくれた人物としてジンの印象が変わった瞬間だったそうだ。
言いにくいことをスパッと言いはなつ残忍さはあるものの、この日を境に皆のジンにを見る目が変わってきたように思えた。
異常なまでの温厚ぶりも認められるまでにそう時間はかからなかった。


「シシシ、あいつ変わった奴だな」
「こんな身も心も汚い連中の中でよく笑顔を絶やさずにいれるわよね〜」
「とんだお人好しだね。笑顔なんて何の得にもならないのに」
「だ、だが……奴は案外見どころがあるぞ」


そんな目立つ存在なゆえにジンは幹部たちからも一目おかれるようになった。中でももっとも評価をしているのはやはりレヴィ。
でもレヴィの言うとおり、奴が変わった性格だけでなくその腕も評価されたんだ。
マフィア幹部の息子というだけあってその戦闘力はなかなかのものだったのだ。


「幹部昇進だ」


まもなく、奴は俺たちと同等の称号をさずかることとなった。
その時にはもう奴の昇進に抗議する隊員はひとりもいなかった。





***
スクアーロ語りでした。
なんだかなあ。思ったように書けないなあ。
ていうかレヴィなんか可哀想だねごめんね。別に嫌いじゃないです。むしろ好きだよレヴィ!

20100328

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