拍手

□拍手4
1ページ/1ページ




ミルフィオーレ日本支部指揮官・入江正一はチェルベッロからの報告を受け、基地内で行方不明になっている隊員を捜索中であった。
1番から3番ドッグを転々としながら正一は大きく溜め息を吐く。


「とすると4番ドッグ、か……」


重たい脚を引きずりながら4番ドッグの扉を開けると、予想通りの人物の背中が見える。
正一はできるだけ平然を装って近づいた。


「やぁスパナ。こんなところにいたんだね」
「ん、正一か」


スパナは声に気付き手を止めて振り向く。が、また再び背中を向けて作業を続けた。
相変わらずのマイペース振りに正一はイラッとしたが、かまわず話を続けた。


「また無線機の電源を切っただろ?困るんだよ、行方をくらまされると」
「調整中に声をかけられるのは気が散るから切った。ほんの一時的だ」
「一時的?こっちは昨日から連絡がつかなくて困ってたんだぞ?」


気が散るから切った?ここはミルフィオーレの基地だぞ?集団に合わせる気はコイツにはないのか。
ちょっと気を抜くと爆発してしまいそうな自分を抑え、正一は話を進めた。
スパナは僕の言葉に首を傾げ、おもむろに作業服のポケットに手を突っ込んだ。
ガサガサと手を動かし取り出したのは問題の無線機。スパナはハッとした。


「ん……あ。悪い、電源入れ直すの忘れてた」
「なっ!?」


正一はスパナの天然さに暫し呆然とした。そうだな、そういえばコイツはそういう奴だった。
やがて我に返ると「次からは気をつけてくれ」とだけ言い残し、早々と立ち去ろうとした。
一方スパナはというと、正一の言動が不自然に感じられた。不審に思いながらその後ろ姿を見つめ声をかける。


「正一、……寝てないのか?」
「――っ!ああそうだよ!!」


このまま何も失言することなく立ち去るつもりだったのに。
スパナの今更な他人事のような口調に、とうとう正一は爆発してしまった。


「昨日も一昨日も寝てないよ!?リングは思うように集まらないし白蘭さんは人任せだし!みんな僕に一体どうしろっていうんだよ!君みたいにただ機械だけいじってればいい奴に僕の気持ちなんてわからないだろ!?」
「正一 ……」
「あっ……」


ポカンとするスパナに散々溜まっていた愚痴を洗い浚い吐き溢す。
彼の澄んだ瞳を目にした直後、正一はハッと我に返った。
無二の友であるスパナに八つ当たりしてしまうことだけは絶対に避けたかったのに。
だからなるべく感情を露わにしないように努めていたが、やはりこんな不安定な状態で来るんじゃなかった。
正一はすさまじい後悔の念に駆られた。


「ごめん、君にまでこんなこと言っちゃうなんて……僕はどうかしてるな」
「別に謝ることない。正一がどうかしているのは今に始まったことじゃないからな」
「ハハ、なんだソレひどいな……ねえ、しばらくココにいてもいいかな?」
「いいけど。お茶、飲む?」
「頂くよ」


寛大なスパナに感謝しつつ、正一はホッと胸を撫で下ろした。
用意された座布団に腰を下ろすと、スパナは奥で急須にお湯を注いでいるところだった。
日本茶の懐かしい香りがあたり一面に立ち込める。
やがてスパナの発明品らしくロボットが両手にお盆を載せてやってきた。
前に話していた新しい助手だろう。正一はお礼を言ってお茶を受け取った。
熱いお茶をゆっくりと喉に流し込むと、さっきまでのわだかまりが少しずつ溶けていくような気がした。


「同じ基地にいるのに、君とこうやって話すのは本当に久しぶりだね」
「相変わらず忙しいんだな」
「まあね。でも仕方ないよ、自分で決めたことだから」


その後も正一とスパナは暫しの時間、他愛もない会話をしながら過ごした。
まるで学生時代のあの頃に戻ったような不思議なひと時だった。


「――それじゃあ、そろそろ戻るよ。僕まで行方不明になったら大騒ぎになる」
「そうか、今日はありがとうな正一」
「いや……礼を言うのは僕の方だよ」


正一が頭を掻くと、スパナは頭に疑問符を浮かべた。


「本当は君を探しに来たというよりは、久々に君の顔が見たくなったんだ」


目ま苦しく息詰まった毎日にプレッシャーを感じていた正一。
停滞気味なボンゴレ狩りに、ボスからの期待。上司も部下も何かあればすぐに自分を頼り、その度に抱えきれないくらい重々しいプレッシャーが自分を押し潰そうとする。
最近は些細なことでも苛立つようになり、仕事での小さなミスも増え、悪循環に陥っていた。
そんな悩みっぱなしの中、ふと思い出したのが友人・スパナの存在だったのだ。

正一は胸の内を全てスパナに告げた。


「さっきは本当にごめん。でも、君に会えたお陰で大分スッキリしたよ」


「じゃあ僕はこれで」とニッコリほほ笑み正一は立ち上がった。
スパナはそんな彼の後ろ姿を見送りながら少し考え、慌てて正一を呼びとめた。


「何だい、スパナ?」


正一が振り返ると、スパナはいつもの調子で口を開く。


「正一、人間だってロボットと同じだ。バッテリーがきれれば充電しないと動けない」
「スパナ……」
「また充電しに来るといい。話し相手ならいくらでもなってやる」


「それだけ」と言い残し、再びスパナは背中を向けて機会の調整をし始めた。
正一は驚いてスパナの背中を見た。昔から変わらない姿に涙が溢れそうになった。
慌てて目頭を拭い「そうさせてもらうよ」とだけ言いクルッと身を翻すと、正一は友のいる4番ドッグを後にした。








.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ