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□瓜の憂鬱
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瓜の憂鬱





おい、聞こえるか?

お前に言いたいことがある。袋の中ん時に言いそびれたことだ。心して聞きやがれ。

まず"ハコ"を置いて黙って消えたことを今すぐに謝れ。土下座して謝れ。
何度も言うがこっちがどれだけ大変かわかってないだろテメー。今は代わりに"ハコ"を開けてくれる奴がいるが"瓜"なんて変な名前を付けてくるあたり、お前とは比べ物にならないくらい未熟なバカだ。

わかってる、それでも奴はお前なんだろ?
わかっててもやっぱり比べちまうんだ、仕方ねぇだろ。


奴と過ごした時間はまだ少ないが、その中でお前と初めて会った時のことを何度も思い出した。
あの時いけすかないお前の顔が一目で嫌いになったっけな。すぐに顔面を引っ掻いて"敵"と見なした。もう今となっては昔のことだな。

あの時はお前の傍らにいることが当たり前になる日なんて絶対来ないと思ったんだけどな。情ってもんは不思議だな。
わかるか?お前はどう思ってたか知らねぇがな、こっちはお前の傍らで一生を過ごすのも悪くねぇなってずっと思ってたんだからな。


それで今、奴といてほんの少しだが同じことを思ったよ。一瞬だったがお前の傍らに立ってるような気がしたよ。考えたら当たり前のことなんだけどな。
そう思えるまですごく長い道のりのような気がしたけど、まぁ着いちまえばどうってことねぇな。奴と会ってからまだ日は浅いし、案外ふつうのでこぼこ道だった気がするよ。


「瓜っ!大丈夫か?」


背中から奴の声がする。そう、今は例の黒い獣と交戦中だ。
態勢を立て直して獣共と向き合うと、すごい殺気と動きを感じた。こいつらも主人を守るために必死なんだな。でも他の連中のことなんて知ったこっちゃない。

今度こそあの男の度肝を抜いてやるんだ。奴となら――お前とならきっとできる。なぁ、そうだろ?


おい、聞こえてんのか?ちゃんと聞いとけよ。

こっちはこっちでもう少し足掻いてみることにしたよ。足掻いてもがいて、そんでどうしようもなくなったらまた奴の顔でも引っ掻いて憂さを晴らしてやる。

だからテメーには悪いが「未来で待ってろ」ってアレ、すぐには果たせそうにない。別にいいだろ、こっちはお前のことどんだけ待ったと思ってるんだ。お互い様だ。


まぁ、色々ぶちまけたがそんなところだ。

これからは奴といるので精一杯でお前のことを考える暇もなくなりそうだ。なにせろくでなしだからな奴は。でも安心しろ、お前のことは絶対に忘れない。お前も奴もバカさは違えど大事な存在だ。奴に限ってはそうなる予定ってだけだが。お前ら二人、その内まとめて面倒見てやるから覚悟しとけよ。

いつかお前と奴の間に座って昼寝でもしてみたいもんだな。それが今後の野望(?)だ。


その時はお前も"瓜"って呼んでくれよ。
それじゃぁ、またな。


「ひるむんじゃねぇぞ、瓜!」
「ガルルルル!」


自分の頭の中の"相棒"の部類に、背後で果敢に戦う男をためらいなく収めた。





前略 アイツ



瓜の憂鬱 END
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