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□瓜の憂鬱
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瓜の憂鬱



ある日の夜更けのことだった。意を決して奴の隙を見て部屋を抜け出し、暗い廊下を一目散に駆け抜けた。
どうしても諦めきれなかったんだ。アイツが自分の相棒にこんな非情なことをするなんて信じられない。きっとアイツの身に何かあったんだ。
色々な思いで頭がはち切れそうになりながらも、床を強く蹴りながら走った。とにかく走った。

どれくらいの距離まできたのだろうか。
息が切れてきた所で減速しようとした、その時だ。
真っ暗な視界を、突如大きな何かに覆われて思わず「ニョッ!」と声をあげた。


「――何してるんだい?こんな所で……」
「……ッ!」


運が悪すぎるとしか言いようがない。まさかこのアジトの男に見つけられてしまうとは。
ぶつかったソイツは冷めきった目でこちらを見るなり、無造作に首根っこを掴んでくる。


「君は確か獄寺隼人の……勝手にウロチョロされちゃ困るよ」
「ニャッ!」


畜生、上手くいくと思ったのに。どうしてくれるんだ。

たやすく自分を持ち上げる男にも、あっけなく捕まってしまった自分にもイライラして壁に爪を立てて八つ当たりする。
ソイツは動じる様子もなく、興味なさそうにこちらを見つめながら再び歩き出した。


「随分と不機嫌なんだね」
「シャー!」


たりめーだろ。と威嚇してみるが、男は全く顔色を変えない。
歩く震動で手足がプランと空中で揺れた。


「今の主人が相当気に食わないみたいだね」
「……ッ!?」
「君の異常な荒れ方を見ていればわかるさ」


初めてアイツ以外の人間に心を見透かされた。ショックのあまりに抵抗するのすら忘れて男を見つめた。
始終冷たい目をしていると思いきや、この時ばかりは穏やかな目をしている。

この男は知っているのか?アイツの居場所を。


「ニョーン!ニョーン!」
「でも彼は彼でしかないんだ。早くそれに気付くことだね」


そう言ったっきり男は口を閉ざした。

言っている意味がよく理解できない。結局アイツはいるのか?いないのか?
その答えも聞けぬまま、奴の元に返されてしまい結局"ハコ"に戻るハメになった。
これじゃああまりにも惨めなので、悔しいから戻り際に奴の腕を一発引っ掻いてやった。

またギャァァァ!と盛大に叫ぶ奴。ざまぁみろと鼻で笑ってやった。


「イテテテテ――なぁ、瓜……何で懐いてくれねぇんだよ」


――!

"ハコ"に入る直前に聞こえた奴の呟き。それが耳に入った瞬間、何かに心を打ちつけられたような感覚に陥った。


『なぁ、いい加減仲良くしようぜ――』


何故か蘇ってきた過去のアイツの声。
まさか……ありえない。ハッと我に返り再び奴に目を向ける。が、瞬く間に"ハコ"の蓋は閉じてしまった。

でも一つだけ、確信してしまった。
自分を「瓜」と呼んだ奴の声。自分を見つめる優しい瞳。
あれは間違いなくアイツのものと同じだった。




懐かしい声がした
.
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