拍手

□拍手2
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「―――あぁっ!またやっちゃった…」


ぺチャッという効果音を立てて床に着地した真っ白なホイップクリームを、私は恨めしそうに睨みつけた。
元を辿れば悪いのは、まぎれもなく私の、この不器用な手であるはずなんだけど。
何かのせいにしなきゃもうやってらんなくなっちゃう気がして。


「あああもおお!もうすぐ銀ちゃん帰ってきちゃうよー」


何を隠そう今日は私と銀ちゃんが付き合って、丁度1年の大事な記念日なのだ。
だから日頃の感謝とか…す、好きだよっていう気持ちとか込めて、銀ちゃんに内緒で好物のパフェを作ろうと思ったのに
今のを入れて、特大パフェ作りの記念すべき10回目の失敗がカウントされてしまった。

目の前には、まだ土台のコーンフレークしか入れられていない大きなグラス。
その周りには泡立ての段階でもはや半分以上飛び散ってしまった無残なホイップクリームの入ったボウル。
とにかくパフェの要が泡立たない以上、他の作業もできたもんじゃない。


「どうしよう…そろそろ銀ちゃん帰ってくるよね?」


いっそのことグラス山盛りにコーンフレークを乗せて「パフェです」でいいかな?
絶対に良くないと分かりつつも、思い描いた通りにコーンフレークとボウルに残った失敗作をグラスに盛る。

これは…最後の手段として取っておこう。


「と、とにかく!もう一回」


気を取り直して再びボウルに生クリームを注ぐ。
失敗しないようにと大袈裟な深呼吸をして、いざ泡立てに臨む。

シャカシャカシャカシャカシャカ

金具と金具のこすれ合う音がリズムミカルに響く。
よし、今度は何とか完成しそうだ…

そう思い、フゥ、と安堵の息を漏らしたその時だった。


「おーい。帰ったぞー」


えぇ、銀ちゃん――――――――!?

なんともう少しで完成(でもないが)というところで銀ちゃん、まさかの帰宅。
ボウルを片手に一瞬固まった私だったが、ハッと我に返りアタフタと台所をうろうろする。

ととと、とりあえず隠さなきゃ!隠さな――――


「―――っ!!」


声にならない叫びを上げた私。
台所を歩き回っている内に、運悪く自分の足を自分の足に引っ掛けてしまったのだ。
ドッターン べチャッ カランカラン という音が同時に鳴り、気が付いたときには、


「…何してんのお前」


銀ちゃんは唖然とした表情で私を見下ろしていたのだった。
ペタンと尻餅をつき、頭には盛大にホイップクリームを被った奇妙な自分の彼女を。

もはや言い分けしようにも無理がありすぎる。


「あのその、パフェ作ろうと思ったんだけど…」
「パフェ?」
「ホラ、今日って記念日でしょ?」
「…あ、ああーそういえばそうだったね」


覚えてたよ、って顔をする銀ちゃん。絶対忘れてたなこの人。


「そんで銀ちゃんに内緒で作ってたんだけど…あ、あのね、違うからねコレ。
これはその、パフェとは別で…そう!コレ新しいヘアケアなの。TVでカーリーが言ってて…
パフェは完成してるんだよ。ホラ、"コーンフレークパフェ"。
すごいでしょ?私頑張って作ったんだよ?ちょっと斬新だけど…」


自分の失態を隠すべく、ついに最終手段に手を出した私。
必死で言い訳を並べる私だったが、銀ちゃんは何だかあまり耳に入っていないみたいで。
何故か私の顔をマジマジと見つめていた。


「…ちょっと、銀ちゃん聞いてる?」
「―――食べていいの?」
「はい?」
「いや、ちょっと…お前がんな大胆なこと言うとは思わなくて…本当にいいのか?」
「??せっかく作ったんだから食べて欲しいに決まってるじゃん」


当然でしょ?と首をかしげると、銀ちゃんは少し照れてゴクリと生唾を飲み込んだ。
確かにコーンフレークとクリームだけってかなり大胆な発想だけど…
何でこんなに動揺しているのだろうか。


「おま、可愛いこと言いやがって…んじゃ遠慮なく」
「残さないでよね〜せっかく作ったんだか―――――――へ?」


そう言ってパフェを食べに入るのかと思いきや、どういうわけか銀ちゃんはおそるおそる私に顔を近づけて来る。
あの…恥ずかしいんだけど。


「どうしたの銀ちゃん?食べないの?」
「いやー、どっから食べりゃーいいんだコリャ」
「…え?」
「やっぱココは…一番甘そうなところか?」
「は!?何言ってるの?」


私の顔を見つめながら何やらブツブツと独り言を呟く銀ちゃん。
――――ちょっと待てよ…もしかして、


「よし決めた」
「…ま、待って銀ちゃん違う!確かにクリーム乗ってるけど私はパフェじゃ――」

「いただきまーす」


もはや手遅れ―――
銀ちゃんは美味しそうに嬉しそうに、パクッと私の唇を頬張りやがりました。

こうして私はまんまと完食されてしまいましたとさ。


この勘違い野郎ー!







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