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□拍手5
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「落し物だから名前とか書いてないかと思って、さ」
「あぁ……そうなんだ」


ジンジンと疼く赤い指先。それに劣らないくらいの熱を顔に感じだ。私は彼の目を見ることが出来なかった。恥ずかしすぎて、自分が愚かすぎて。


――ハート型の紙の裏表に好きな人と自分の名前を書いて、ピンクの封筒に入れて持ち歩いてると両想いになれるんだって!


よくある話、ただのおまじないだ。お節介な友達がファンの子全員に配ってた紙と封筒の一つがコレで、私は『みんなでしても意味ないだろうが』とか思いながら付き合いで書いて持ち歩いてただけ。ただそれだけのはずだった。

山本君はきっと中を見てビックリしたんじゃないかな。自分のでもないものに、『山本武くん』って自分の名前が書かれたんだから。
可哀想だな。どんな顔すればいいのかわからなくて困ってるんだろうな。

でも咄嗟に浮かんだ「好きで書いたわけじゃないのに本人に見られた私の方が可哀想だ」とか「ファンの子全員でやったことなんだって言えばいいんだ」という考えを、私は直ぐに振り払った。自分でもビックリだな。あれだけ建前だとか言っといて、知らず知らずに私も彼に惹かれてたのかな。


「それじゃ」


弁解も嘘も下手な私はもう逃げることしか考えていない。ただこの場から離れたい一心で呟いた一言が、会話の流れを不自然に断ち切る。
もう告白しちゃったも同然だけど、この期に及んでも私は山本君に変な子だと思われたくなかったし、間違っても「ゴメン。お前の気持ちは嬉しいけど――」だなんて言葉は絶対に聞きたくなかった。


「お、おい待てよ」
「邪魔してゴメンね。山本君も早く部活行ったほうがいいよ」
「そうじゃなくて。とにかく待てって」


山本君の声が怒っているように聞こえて、臆病な私は身動きが取れなくなった。帰る方向を向いたこの目に彼の顔は見えない。
すると、右手にやんわりとしたぬくもりを感じ思わず振り返る。彼の手が私の脈打つ赤らんだ指先を包み込んでいた。怒気のない穏やかな手だった。


「保健室行こう」
「え?」
「お前に怪我させたまま部活なんて行けねぇよ」
「でも……」


そう言うと私の手をつかんで保健室へ向かおうとする山本君。優しくて親切で、山本君って本当に何なんだろう。でもこんな彼の行為を素直に嬉しいって思えない私も、本当に何なんだろうね。

でも、繋がれた彼の手は本当に本当に優しくて、あたたかくて、これは神様さえ見捨てた今日の私を不憫に思った山本君の慈悲なのだろうか、なんて思ってしまうくらいだった。だったらこれからのことはまた後で考えるとしようかな。今はこの心地良い体温に包まれた私の赤い指先をじっくり眺めていたいから。



情けない。嬉しい。憐れだなぁ。あたたかいなぁ。

そんなゴチャゴチャとした変な色の感情に苛まれながら。指先がズキズキと疼くリズムに乗せながら。私の恋はこんな風にはじまったのです。












指先から恋が始まる










title:確かに恋だった

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