家政婦さんの隣人 本文

□半分こ
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季節というものは決して止まることなく巡り続けるものだ。

年が明けて早2ヶ月が経とうとする今日この頃。殺風景な木々の先には膨らみ始めの花の蕾が見られるようになった。

こうして辺りは段々と春に色づいていくのだ。


「よいしょっと」


押し入れの奥まで身体を突っ込んで、私は奥に眠る物を引っ張り出した。
出てきたのは大きな古臭い箱。見た目どおり重くて、出し終えた時にはフーと一息ついた。

懐かしいなー昔は毎年出してたっけ…と過去の思い出を頭に巡らせながら上の埃を払う。中に入っている白い包みを持ち上げ丁寧に開くと、何とも可愛らしい白い顔が姿を現した。


「イブちゃーん。何してるアルか?」


遊びにきていた神楽ちゃんがひょっこり顔を出した。私がニッコリ笑ってそれを見せると、彼女は興味深そうに凝視した。


「洒落た人形アルな〜何ヨこれ?」
「そっか、神楽ちゃん知らないよね。雛人形って言うんだよ」


箱の中身を次々出しながら私は言葉を続けた。


「3月3日は"桃の節句"とか"雛の節句"っていってね、こうやって人形や桃の花を飾ってお祝いするんだよ」
「何でそんなことするアルか?地球人は何かにつけてパーチーしたがるネ」
「これはね、女の子の幸せを願うお祭りなんだよ―――ホラッ出来た」


たった二段の雛人形をあっという間に出し終えた私。
色鮮やかなその見てくれはとても華やかで、殺風景なこの部屋にパッと明かりが灯ったようだ。


「わぁ綺麗」
「でしょ?」


やっぱり神楽ちゃんは女の子だなぁと改めて思う。いや常日頃から思ってるけどねそういう意味じゃなくて。


「雛祭りなんて銀チャンちっとも教えてくれなかったヨ」
「まああの人は男だし、あんまり自分に関係ないからね…」


ムスッとする神楽ちゃん。まあ気持ちも分からなくもない。
雛祭りに祝ってもらえないなんてまるで女の子であることを否定されてような―――いや別に神楽ちゃんが女の子であることを否定してるわけじゃないよちがうからね。


「――よし、じゃあ今年は私が雛祭りを堪能させてやろうじゃないの」
「えっ?」
「せっかくだもん、来週の3月3日はご馳走作ってお祝いしよっ」
「キャッホォォォォォォォォォ!」


奇声なんだか歓声なんだか区別しがたい声をあげる神楽ちゃん。
私は「じゃあ早速買出しだね」と、そんな無邪気な少女を連れて家を出た。





+半分こ+

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