花が散って舞う様は

まるで二人の運命を

暗示しているようだった




此処で


 ら
  り


華と散る





今、俺は山さんの部屋にいる。
さっきからずっと二人とも黙ったままだ。


慎吾さんは大丈夫だろうか‥‥


思いきり山さんに殴られていたけれど―――



「‥‥準太はさ、」


先に口を開いたのは山さんだった。


「準太は芸妓辞めるの?」
「‥‥辞めなきゃ駄目、ですか?」
「それは準太が決めることでしょ。だけどさ‥‥」


その言葉の後に続く言葉はわかる。


『本当にそれで、後悔しない』そう言い切れるのか、ということ。


「‥‥少し、一人で考えさせてください」



それから俺は部屋に篭った。





あの約束から三年。

慎吾さんはずっと俺に会いに来てくれた。
愛してくれた。


それなのに、俺はその優しい人を裏切ったんだ。



慣れる、というのは怖いものだ。

たった一日会わないだけなのに、こんなにも苦しい。

否、俺があの人に会いたいと思っているだけだ。



気がついたら俺は、いつも慎吾さんが泊まるのに利用している宿に走っていた。






部屋の戸を叩くと、驚いたような顔をする慎吾さんが顔をだした。

そんな姿さえ愛おしくて、彼の胸に飛び込んだ。



「‥苦しいよ、慎吾さん‥‥」


忘れることも、諦めることもできない恋に溺れたのは、

俺か、それとも‥‥



「準太、」
「ごめ、‥ごめん、なさい‥‥慎吾さ、‥‥」



息をつくひまもない程の激しいくちづけで息苦しく思うのに、心は何故満たされていくのだろう。



「‥好き‥‥」


消え入りそうなほど小さな声で呟いた初めての愛の言葉の重さ。
この言葉は俺のこれからの人生の全てを変えるだろう。



「俺は、いつまでも待ってるよ」


その時慎吾が俺に渡した紙には乱雑な字で住所と電話番号が書かれていた。


「俺はずっとここにいる。会いたいなら会いに来る。だから準太の気が済むまでここで頑張ってみな。」


待つ、という行為がそれほど容易であるのか。いや、そんなはずがない。

それでもこの人は、ずっと俺を待っててくれると言う。

そして、三年前と同じように二人の小指を絡めた。







ゆびきりげんまん

うそついたら

はりせんぼん

のーます







あれから数年。

俺は芸妓の頂点に立ってすぐにこの街を出ることを決意した。


街を出るときに潜る赤い門の前には、嬉しそうに微笑む慎吾さんが煙草をくわえて立っていた。




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