生きて行く為に、

捨てたモノ

淡い色のキモチ



を弾き
 を引き
   を曳き



花街の芸妓になる為、幼いころからずっとこの街で芸だけ学んできた。

この街の外のことは客から聞く話の中でしか触れることができない遠い場所。



「準太、準備できた?」
「あ、山さん。ちょっと待って下さい。」


最近舞妓から芸妓へと変わる歳を向かえ、いつも以上に準備に手間取る。


「準太もいいげん準備するのなれなよ」
「‥‥はい」
「俺は舞妓より楽だと思うけどねー」


山さんはそう言って笑った。

山さんは俺の一つ上の先輩。いつも仕事を教えてくれる優しい人だが怒ると怖い。いや、マジで。


「何?俺の顔になんかついてる?」
「いや、そんなことないっす!」
「あっそ。ほら、行くよ」






茶屋へと向かい、今日のお客さんに一礼して座敷へとあがる。


「へぇ、こんな可愛い子がいたんだ?名前は?」
「準太です」
「準太?可愛い」


俺を撫でて、その男は笑った。
子供扱いされているみたいで正直腹がたったが客相手に文句言うわけにもいかずほって置いたら肩に手をかけた。


「島崎さんは新しい子みんなに可愛いーって言うくせに」
「おいおい、そーゆーこと言うなよ山ちゃん。山ちゃんも可愛いよ」
「へぇー、俺お前に言われたの初めて」
「ほんっと山ちゃんには敵わないな」


島崎と呼ばれたその男は山さんの常連らしい。それならば山さんに酌を頼めばいいのに、俺の肩を抱いて離さなかった。


「準太、折角褒めてもらったんだから琴でも弾いてやりな」
「あ、はい」
「三味線じゃなくて琴か。珍しいな」
「準太の琴は凄いよ。そのかわり三味線はイマイチだけどね」
「山さん!///」
「へぇー、じゃあ今度来た時は三味線弾いてもらお」
「からかわないでください!」


島崎さんも他の客も笑った。
ちょっと山さんを睨んだらいつものように笑顔でかわされた。


琴の弦に指を置く。
弦を弾く度に響く音の調。連なって一つの曲をなす。それに合わせ舞妓が踊る。


さっきまで笑っていた奴がみんな静かに舞妓の舞いに酔いしれた。



「‥‥確かに凄い。これは予想以上だな」
「へぇ、島崎さんでも人を褒めることがあるの」
「まあな。本気になりそ」
「やめときな。あの子は芸妓。芸妓は恋はできないよ。恋をしたらあの子が苦しむだけ」


その時、島崎さんと山さんがそんな会話をしていたことを知ったのはずっと後になってのことだった。


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