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□チケット
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ムック、のライブに来た
バイト先で知り合った逹瑯は背が高くて独特の雰囲気をもってる
バンドでボーカルをしているらしい
言われたときは「ああ」と納得できた

受付で置きチケットを受け取ってライブハウスに入る
中ではもう違うバンドの演奏が始まってた
ドリンクをもらってモッシュピットの後ろのテーブルにもたれて眺めてたらそのバンドの演奏が終わった

「次、ムックだって」
「前行こ、前!」

フロア全体が演奏中とはまた違った騒がしさに包まれた
次がムックなんだ…前、行こうかな
そう考える間にもモッシュピットはみるみる人で埋まっていった
女の子が多いなあ、なんて思っていたら、辺りがいっそう暗くなった
照明の明るさの低下と反比例してフロアの熱気は上がってく
舞台上に小さな影が現れて、あれは逹瑯が言ってたギターのひとかな
最後にひょろりと逹瑯の影が現れたとき、熱気は最高潮だった

女の子の歓声が上がる
ドラム、ベース、ギターの上に重なる歌声
圧倒的
揺れる、会場

バイト先でへらへらしてる逹瑯とも
ふたりで一緒にいるときの逹瑯とも
どれとも違う逹瑯がそこにいる


ムックの逹瑯
たくさんの視線と光と音の中心にいた
腕を挙げてムックの音を求める客にこたえるように声を張る

それを見ていたらふいに苦しくなった
あたしをその場から動けないように蛇のように、ぐるぐるぐるぐる、締め付ける苦しさ


おお、これが嫉妬というやつか


と、分かってあたしは愕然とした


あたしは逃げるようにライブハウスを出た
どこに向かってるかもよくわからず、走る




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