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□おかえりなさい
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別れの言葉で終わった物語だった。
短調の物悲しい曲とともにエンドロールが流れる。真っ黒な中に浮かび上がる青白い文字。
下から生まれて上に消えるそれを眺めながら、急速に夢から醒めてゆくような気持ちに整理をつけようと、わたしは躍起になっていた。
目が赤いとかそういう痕跡を残したくないから、ぼろぼろと目からこぼれ落ちるものを無視して平静を必死に取り戻す。
こんな姿、誰にも見られたくない。
何かを見聞きした後の、自己肯定のために流す涙が嫌いだった。
公開終了間際らしい、がらんどうの客席に座りながらそんなことを考える。辺りを見渡すと、元々まばらだった観客はもうほとんど出払っていた。
切り替えの早い人たちだと素直に感心する。わたしは未だに不規則に湧き出る嗚咽を抑えるのでいっぱいいっぱいだ。
最後のシーン、彼が彼女に向けた言葉が忘れられない。
さようなら。一文字ずつ噛み締めるように彼から手放された言葉たち。きっとあれは、今生の別れだった。
「素直に泣けばいいじゃん」