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□夢と烏
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青空を羽ばたく、黒い鳥。
あたしもそんなふうに気持ち良く飛べたらいいのに。
だけどどうせなら、もっと見たこともないような綺麗な鳥だったら良かったのにな…。
目覚める直前、脳内に映し出された景色に、憧れと、少しの落胆を感じて苦笑い。
ひとつ大きく深呼吸して、
ふわふわとした心地よい眠りの中に少し未練を残して、現実へ戻らなきゃ。
ふわふわと、あたしの右側の頬っぺたを柔らかく包むシーツの感触の気持ち良さにも未練…
……ていうか、
違和感!
パチッ、と勢いよく開いた目の前10センチ以内に、あるはずのない、物体。
どアップで視界を占領するそれは、見たことのある服。
その服を着ている人物を、あたしは一人しか知らなくて。
頬っぺたの感触はいつものあたしの布団のものじゃないし、
漂う香りは思い浮かべた人物のもの。
だけどこんな至近距離、しかも一緒に寝てるとか有り得ないし!
頭の中にぐるぐると「?」が回って、恐る恐る、隣であたしと向かい合わせに横たわる人物の胸のあたりで固まってしまった顔を動かして少し上を見る。
「…!!」
予想通りだったけど予想外であって欲しかった、っていうか……、
なんでっ?!
目に映った、逹瑯の寝顔。
……!
あたし、服!
咄嗟に自分が服を着ているのか不安になって、確かめるように自分の体を触ったら素肌ではなくて、
そりゃ逹瑯も服着てるしそんな訳ないか…と、ほっとした瞬間。
背中を押されるように加えられた力で、体が逹瑯に引き寄せられる。
「なんもしてねえし」
逹瑯の腕があたしに巻き付いて、
逹瑯の声があたしの頭の上から聞こえる。
「まだ、だけど」
ふふん、と鼻で笑いながら、また少しあたしと逹瑯の体がくっつく。
「!ちょっ!逹瑯!」
「もうねー、おまえここまで運ぶのすげー大変だったー」
「へ?!運んだ?」
運ばれた記憶なんてない。
というか、ここでこうやってこんなことになってる記憶もないし?!
「覚えてねーんだ?」
「…う、……はい」
「昨日ムックのライヴだったことは?」
「……あ!
うん、はい、思い出しました…」
そうだそうだ。うん。
昨日はライヴに行って、それで………どうしたっけ。
「ライヴ終わってー、打ち上げ終わってー、そんで帰ってきたら玄関の前におまえがいた」
「え?」
「しかも、すっげー酔っぱらって寝てた」
「ええっ?」
「ありえねえ!って思ったけど放っとくわけにもいかねえべ?んだから運んだらー、俺も力尽きちった」
ケラケラ笑いながら「重かった」だの「俺も疲れてんのに頑張った」だの、逹瑯の愚痴と自分への賛辞を聞きながら、
昨日、酔う前までのあたしをなんとなく思い出す。