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□声
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風呂上がり、先にリビングのソファでテレビを見ていた名無しさんをなんとなくぎゅう、と抱き締めたら、
「んー、たつろう、いい匂い」
「そ?名無しさんとおんなじシャンプーの匂いよ?」
名無しさんはそっか、と呟く。
抱き締めた名無しさんの髪からは俺とおんなじシャンプーの匂いがして、俺はなんだか名無しさんを自分のものにしたみたいで少し嬉しくなる。だから俺ん家には、名無しさんのシャンプーは置いてやらない。
「ねぇ、逹瑯」
「ん?」
「もうすぐだね」
「なにが?あ、日武?」
「うん」
風呂上がりの温い俺の体温と、室温が低いせいか少し冷たい名無しさんの体温が、ちょうどいいくらいに混ざり合って心地いい。
「名無しさん結局これるんでしょ?」
「うん、」
「仕事、なんとかなったんだ」
「なんとかしたんだよ」
「なら良かった」
名無しさんの髪をそっと梳くと、名無しさんはくすぐったそうに身をよじった。
「ライブで逹瑯の声聴くとね、ドキドキする」
「そうなの?」
「うん」
「ライブでだけ?」
「……ほんとは近くで聴いた方がドキドキする、」
「…だろうねえ」
名無しさんがそう言うので、わざと耳元で囁いた。
名無しさんは少し不満げな顔で俺を見て、小さく呟く。
「むかつく、」
「………うそつき、」
だって、ほんとは耳元で囁かれるの、好きでしょ?とまた耳元で言うと、名無しさんは少し顔を赤くして、困ったように笑った。
「ま、期待してなよ。今晩も、日武も」
名無しさんを見てにやりと笑うと、名無しさんは更に顔を赤くした。
END