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□七弦
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その手で描く。
その手で紡ぐ。
七本の世界──…
七弦
七本の弦の上を滑る、その手が好き。
少し小さめだけど。少し指は短めだけど。
その手はあたたかくて。
幸せまで導いてくれると、知っているから。
「はい、ミヤくん」
「ん、」
ミヤの前にコーヒーを置き、名無しさんはその向かいに腰を下ろした。
ミヤのカップの中身はブラックコーヒー。
名無しさんのカップの中身は砂糖とミルクがたっぷりのコーヒー。
仕事の時は、ブラック。それ以外の時は、名無しさんと同じ甘めのコーヒー。
きっと名無しさんだけが知ってること。
一緒に暮らすようになって、お揃いで買ったマグカップ。
ギターと譜面を真剣に見比べるミヤの様子を眺めながら、名無しさんはカップに口をつけた。
「おいで、ギズ」
ついさっきまでお気に入りのクッションの上で眠っていたギズが、いつのまにかミヤの足下にいて。ミヤを見上げながら、遊んでほしそうに尻尾を振っているから。名無しさんが声をかけて手を伸ばせば、ギズモは名無しさんの膝に飛び乗ってきた。
そのフワフワの背中を撫でてやれば、嬉しそうに一声鳴いて。