0315

□唄を届ける
1ページ/6ページ


やっぱり付き合っている彼女に、ライブ来てほしいっていうのは当たり前だと思う。

もう10年もバンドしてるし、海外ツアーだってやって。
これで何年も飯食ってるわけだし。
それなりにプライドだってあるし、さ。



だけど、何十回、何百回誘っても。
名無しさんは首を縦に振らない。



「ねぇ、武道館のチケットいいトコ取ってやっからみに来てよ」

「やだ」

「即答かよ!」


シーツの中、脚を絡めて遊ぶ。
激しく求め合った、心地いいけだるさの身体。
いつもよりスロウに感じる時間。
まったりと、甘い時間帯に投げ掛けた誘いはあっという間に翻された。



「なしてよ。絶対CDで聞くより楽しいから来ればいいのにー」

「それは、そうかもしれないけど嫌なのはいーや」

「わかった!ヤキモチだべ?」


ひょっとして!
オレ、人気ヴォーカリストで女の子からキャーキャー言われてんのが嫌なのか!!?
何それ!名無しさん可愛すぎるでしょ!!
たったんが愛してんの名無しさんちゃんだけだってば☆


「…はぁ。たつろーにはわかんないよ」

「何で溜め息!」



名無しさんはオレに背を向けて丸くなってしまった。

何が嫌なのか、さっぱり理由がわからない。
このままじゃ、モヤモヤして寝れないだけじゃなくて。
武道館へのモチベーションだって上がんないっつーの!



「ねーねーねー何が嫌なのー?教えて!じゃないとたったん唄えない!」

「知らない」

「ねーねーねーねー」

「………」


ちくしょ、寝たふりしやがって!
負けないっ。


「名無しさんーねーねー、ねーねー名無しさんちゃーん」

「うーるーさーいー」

「だって気になる!いい加減理由くらい教えなさい」

「むぅ…」

「むぅ…じゃねぇよ」


無理矢理名無しさんを振り向かせれば、唇を尖らせ不服の顔。
それもまた可愛いらしいけど。


「お願い!名無しさんのために、名無しさんの好きな曲歌うから。ミヤくんに交渉すっから!ねっ!」

「……本当?」

「ホント、ホント。来てくれる気になった?」

「うん……逹瑯がそこまで言うなら」

「マジ?オレ張り切っちゃうかんね」





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ