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□唄を届ける
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やっぱり付き合っている彼女に、ライブ来てほしいっていうのは当たり前だと思う。
もう10年もバンドしてるし、海外ツアーだってやって。
これで何年も飯食ってるわけだし。
それなりにプライドだってあるし、さ。
だけど、何十回、何百回誘っても。
名無しさんは首を縦に振らない。
「ねぇ、武道館のチケットいいトコ取ってやっからみに来てよ」
「やだ」
「即答かよ!」
シーツの中、脚を絡めて遊ぶ。
激しく求め合った、心地いいけだるさの身体。
いつもよりスロウに感じる時間。
まったりと、甘い時間帯に投げ掛けた誘いはあっという間に翻された。
「なしてよ。絶対CDで聞くより楽しいから来ればいいのにー」
「それは、そうかもしれないけど嫌なのはいーや」
「わかった!ヤキモチだべ?」
ひょっとして!
オレ、人気ヴォーカリストで女の子からキャーキャー言われてんのが嫌なのか!!?
何それ!名無しさん可愛すぎるでしょ!!
たったんが愛してんの名無しさんちゃんだけだってば☆
「…はぁ。たつろーにはわかんないよ」
「何で溜め息!」
名無しさんはオレに背を向けて丸くなってしまった。
何が嫌なのか、さっぱり理由がわからない。
このままじゃ、モヤモヤして寝れないだけじゃなくて。
武道館へのモチベーションだって上がんないっつーの!
「ねーねーねー何が嫌なのー?教えて!じゃないとたったん唄えない!」
「知らない」
「ねーねーねーねー」
「………」
ちくしょ、寝たふりしやがって!
負けないっ。
「名無しさんーねーねー、ねーねー名無しさんちゃーん」
「うーるーさーいー」
「だって気になる!いい加減理由くらい教えなさい」
「むぅ…」
「むぅ…じゃねぇよ」
無理矢理名無しさんを振り向かせれば、唇を尖らせ不服の顔。
それもまた可愛いらしいけど。
「お願い!名無しさんのために、名無しさんの好きな曲歌うから。ミヤくんに交渉すっから!ねっ!」
「……本当?」
「ホント、ホント。来てくれる気になった?」
「うん……逹瑯がそこまで言うなら」
「マジ?オレ張り切っちゃうかんね」