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運命のカウントダウンは静かに始まっていたんだ。



ミヤと再会したのは、去年の秋の話。
ある日本のバンドがアメリカで単独公演をするから、と。
通訳の仕事を頼まれた。
あたしは、高校を卒業して単身アメリカに留学した。
大学で語学の勉強してからでも遅くないんじゃないか?
そう、学校の先生にも親にも進められたけど。
あたしは生きた英語に触れたかった。
それと、それを言い訳にした感情のために。
インタビューをすると、教えられたホテルに向かって驚いた。
沢山のスタッフさんに囲まれた人に。

もしかして、名無しさん?」
「……ミヤ、くん?」

ミヤが居た―――。


「えー?何、うそ!!名無しさんちゃん!!?」
「おぅ。やっぱ、名無しさんか。久しぶりだな」
「うん。久しぶり。元気だった?」
「まぁ、な」

しばらく、日本を離れてたからまさかとは思ったけど。
ムックって、やっぱり、ミヤの組んでたバンドだったんだ。
この日、ミヤと交わした言葉はこれだけ。
インタビューの合間にしきりに話しかけてくるのは逹瑯くんだった。
彼は何も変わってなかった。
『ねー、ねー、こっちの生活長いの?』
『てか、日本はたまに帰ってきてんの?』
『なんで、ぐっちゃと別れてアメリカに留学したの?』
昔からそうだ。ミヤと付き合っていたあの頃と同じ。
逹瑯くんは痛いところを質問攻め。
でも、答える前に自分の話を語りだしてしまうんだけど。
アメリカ単独公演までの話をあれこれ、勝手に話してくれた。
途中から、ユッケくんと、さとちくんも混じって。
なんだか、高校時代に戻ったみたい。
変わらないみんながキラキラして見えて。
見ていて凄く楽しい気持ちは変わらないんだけど。
ここまできても、変われないあたしに気づいてしまいそうで。
言うならば、ムックのみんなはカラー写真。
あたしは、過去に置き去りのモノクロの写真みたいで。
チクリ、
封印したはずの痛みを思い出して足早にホテルを後にした。


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