進撃の巨人

□まがいもののチェリーパイを。
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 地下街に居た頃、リヴァイはある噂を聞いた。
 それは子供だという。だが、男の子供だという人もいれば、女の子供だという人もいた。人によって意見が違うのだ。
 次に、目の前にいたはずが気付いたら後ろに回り込まれていたりと気味が悪い程にすばしっこいのだという。
 終いには幽霊なんじゃないかと言いだす奴もいた。
 
 しかしながら、ある日リヴァイ達がその子供を捕まえたところ、なんてことはない。男と女の双子だったのだ。瓜二つで同じ服を着ているものだから見分けはつかなかったが、まあ二人並べば確かに二人いただけのことだったとリヴァイと友人達は納得した。
 そして、すばっしこいことにはすばしっこかったが、それでも種が解ればなんてことはなかった。二人は、まるで一人のふりをして周りを翻弄して盗みを働いていたのであった。
 幼いながら、二人は良く協力して、地下街を立派に生き延びていた。
 女の方は菓子を作るのが得意で、二人で貴族の屋敷から砂糖を盗み出しては、女の方が菓子を作っていた。特にもチェリーパイは絶品であり、また二人の大好物だった。チェリーパイを頬張りながら、合わせ鏡のように笑い合う二人を見ると、まるで此処が地下街だということすら忘れそうになった。それ程に、二人は共にいることだけで幸せそうだった。
 
 常に一緒だった二人も、成長と共に少しずつ「ズレ」が生じてきているらしいことは、二人が双子だと知る者は皆知っていた。それでも、それが成長ということだと「ズレ」について深く考える者はいなかったし、また盗みのときは変わらず必ず二人で協力していた。
 そして、二人は12歳になると、訓練兵団へ入り、地下街から姿を消した。
 
 数年後、リヴァイが調査兵団へスカウトされたとき、双子はリヴァイのことを忘れていた。リヴァイですら、面影を辛うじて覚えていて、地下街出身だという噂を耳にしたことで、あのすばしっこい双子なのだと気付いたに過ぎない。
 そして、なにより。
 
 二人だったはずの双子は、一人だけになっていた。
 


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