黒い百合
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今夜もポッターの守護霊呪文の特訓だった。
何時も通りボガートを使って。私は何時も通り、少し離れた場所からポッターとリーマスの特訓を見ていた。
そう、何時も通りのはずだった。でも、何かが違った。
何時もと同じリーマスの私物の荷造り箱だったけれど、もしかしたら何かの手違いで何時ものボガートは別のボガートに入れ変わっていたのかもしれない。理由は解らない。でも、今夜のボガートは一度ポッターに退けられそうになったとき、次の標的をポッターでもリーマスでもなく、一番離れている私に変えた。咄嗟のことで、私は手にしていた杖を構えることも出来なかった。
部屋いっぱいに、黒い霧が広がった。
私の思考は止まっていた。どうすればボガートを退けられるのか想像できなかった。それ以前に、ボガートがどう化けるのかすら、想像できなかった。
黒い霧は重力に従うかのようにゆっくりと床に落ち、少し視界が開けた。開けた視界の先で、窓際の一部の霧がゆるゆると一つの塊となり、徐々にその輪郭をはっきりとさせた。
一人の幼い男の子。
よく、よく知った男の子。
まるで早送りの映像のように、4歳程だった男の子は成長していき、10歳程になったときくるりと背を向けた。背を向けたまま、男の子はどんどん成長していく。18歳の姿になった時、彼は少しだけ振り返り、私を一瞥した。そして、私のことなど目に映らなかったように視線を戻し、一歩踏み出した。その彼を黒い霧が包んでいった。
そこから先は、覚えていない。