黒い百合

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「どうして、別れたのだ。」
 
 部屋を後にしたリーマスを確認してから、彼は隣に座って私の灰色の背を撫でながら、問い掛けた。
 
 彼がリーマスに渡しているもの、其れが脱狼薬だと気付いたのは彼が人狼の授業をした次の満月が近付いた頃のことだった。
 リーマスが、人狼。
 いつも優しくて、でも弱いところもあるリーマス。学生時代、虐めを止めることは出来なくて、その代わりに私の手を引いて、私が少しでも其の現場を眼にしないように気遣ってくれた。勉強の解らないところを教えてくれた。ホグズミートへ連れて行ってくれた。同じ監督生になった私を支えてくれた。
 きっと其の優しさは、私の片割れに対する後ろめたさからきていた部分もあるのだと思う。それでもリーマスはいつも私に優しかった。きっと私が今迄出会った誰よりも。
 優しいリーマスは時々とても悲しそうに寂しそうに、そして何処か自分自身を嘲るように笑った。占い学の課題で一緒に満月を観察しようと誘ったとき、リーマスはそんな風に笑ったことがあった。誘いを断られた私の方が申し訳なさでいっぱいになったことを覚えている。
 …そうか、リーマスは人狼だったのか。
 
「上手くいっているように見えていたが。」
 
 まどろみの中で、背を撫でる彼の暖かい手と、彼の問い掛ける声を感じる。
 あの頃、お義母さんにも言われた。上手くいっているように見えた、二人とも幸せそうだった、どうして別れてしまったの、と。そしてこうも言われたのだ。『何かを知ったのですか。』と。あの時は何を言われているのかわからなかったけれど、それもきっとリーマスが人狼だということを指していたのだろう。
 
「奴の秘密を知ったわけではなかったのだろう。」
 
 えぇ、そうね。
 そう答えるつもりで小さく鳴き声を上げる。
 リーマスが人狼。もしあの頃其れを知っていたらどうだったのだろう。其れを別れる理由にしただろうか。今となってはもう解らない。
 じゃあ、今は。今はどう思う。
 
 リーマスが人狼。
 もしそうだとして、其れが何だというのだろう。
 
 まどろむ意識の中で思った答えが、正しいものなのかどうかは解らない。ただ、灰色の文字となって私の心に静かに沈んでいくのを感じた。
 


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