黒い百合

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 彼がクィディッチの試合で審判をやることになったらしい。前回の試合でのポッターへの呪いが関係しているのだろう。あのことは誰にも話していない。彼が気付いていたのなら校長にはちゃんと伝わっているはずだし、呪者が誰だったのかも既に誰かが気付いているはずだ。態々私なんかが口を出す必要はない。私は助教授に過ぎないのだから。
 試合は無事に終わったとお義母さんが教えてくれた。今年のグリフィンドールは絶好調らしい。お義母さんが嬉しそうなのは何よりだ。そんなことを思いながら夕飯のために食堂へ向かおうとしていれば、彼が城外へ出て行く姿に気付いた。何かが、引っ掛かった。
 私は周りに誰もいないのを確認してからポンッと姿を変えた。そして彼の後をついていく。何処まで行くのかと思えば、辿り着いた先は禁じられた森で、其処にはクィレル教授の姿があった。二人の会話の内容をこっそり立ち聞きする。やはり、先日の呪いの一件はクィレル教授が関わっていたのだろう。…去年の研修に行く前までは闇の魔術に手を出すような人には見えなかったのに何故…。暫くすると話は終わり彼が此方に向かって大股に歩き出した。慌てて私も戻ろうとしたが、如何せん小動物と成人男性では歩幅も速度もスタミナも雲泥の差で、城に入った直後に追い付かれてしまった。
 ジロリと彼が私を見て、私もじっと彼を見た。直ぐに逸らされるかと思った視線は意外にもなかなか逸らされない。結局私は根負けして人の姿に戻った。
 
「立ち聞きとはご立派ですな。マクゴナガル助教授。」
「その、偶然、スネイプ教授をお見掛けして、こんな時間にどうしたのかと気になりまして。」
「余計なお世話だ。」
 
 ばっさりと切り捨てられ言葉に詰まる。しかし其の場を立ち去ろうとした彼の腕を掴んで引き留めた。
 
「何の用だ。」
「クィレル教授には気を付けて下さい。」
 
 彼の眉間の皺が深くなった。
 
「此の間の呪いだって、かなり高度な闇の魔術だったじゃないですか。」
「…どういうことだ。」
「…え?」
 
 唸るような問い掛けに、思わず私は聞き返した。
 
「どういうことだ。」
 
 彼は繰り返した。彼の潜められた声に合わせて、私も小さな声で答える。
 
「此の間のクィディッチの試合でポッターの箒に掛けられてた呪いのことです。クィレル教授が掛けていた。」
「…矢張りそうだったか。」
「気付いてなかったの?」
 
 思わず砕けた口調になってしまった。
 
「クィディッチの試合中は選手に外部から干渉することが出来ないように何重にも魔法が掛けられているでしょう。其れを打ち破って呪いを掛けるなんて容易なことじゃない。魔法の種類からしても闇の魔術の領域だわ。」
「何故あいつだと解った?」
「貴方の反対呪文の行使方法から逆に考えて呪者も同じ方法を用いていると思って。場内を探したら該当するように見えたのはクィレル教授だけだった。」
「…どうして吾輩の反対呪文のことを知っている。」
「どうしてって、あの距離で貴方が魔法を使えば気付くわ。貴方の様子と魔力の流れで魔法の種類は判断出来る。私達は」
 
 双子なのよ、と言い掛けた私の口を彼の大きな手が塞いだ。
 
「あいつの、クィレルの魔力を辿ったりはしていないな。」
 
 口を塞がれているので首を横に振る。
 
「此の事を誰かに話したか。」
 
 また首を横に振った。
 
「マクゴナガル教授や校長にもか。」
 
 ノーという意味でもう一度、首を横に振った。それから口を塞ぐ彼の手を軽く叩いた。そうすれば手はすぐに離れる。
 
「貴方や他の教員の中にも気付いている人はいると思っていたから誰にも話していないわ。私なんかが態々言う必要なんてないことだと思ったから。」
「…目星は付いていたが、確実な証拠も目撃者もいなかった。」
「そう。」
 
 相槌を打つように私が答えると、彼は私の両肩を強く掴み、少し身体を屈めて顔を近付けてきた。
 
「此の件は他言無用だ。お前はもう首を突っ込むな。クィレルにも近付くな。」
 
 鬼気迫る様子に圧倒され、私はおずおずと頷いた。
 
「貴方がそう言うなら。…でも」
「…何だ。」
「貴方も危ないことしないで。此の間の怪我だって」
 
 そこまで言ったところで、ガヤガヤとした声と足音が廊下に響いた。夕飯を終えた生徒達だろう。其の音を聞くや否や彼は私から手を離し、ローブを翻しながら其の場を立ち去ってしまった。
 


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