06/04の日記
20:54
発掘ネタ
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◆追記◆





太陽が天頂を通り過ぎた頃。
ここ連日の悪天候を無かった事にするかのように空は青々としていて、外部居住区の住人たちの表情もどこか綻んでいる。そんな中、強ばった表情でぎこちなく外部居住区を歩く二人組がいた。フェンリル極東支部・第一部隊所属の朝永アサギと来住カンナだ。
二人は周囲を気にするように忙しなく視線をあちこちに泳がせながらも、少し前を歩くフード頭から視線を極力逸らさないようにしている。まるで、見張り続けているような雰囲気だ。
フード頭の背丈は小さく、子どものようにも見える。それはフードの下に覗いているであとう目に映る全てが気になるのか、アサギたちとは違う動きで周囲を見回している。


「……俺、今すっごく不審者みたいな状態になってるような気がするよ」


冷や汗を額に浮かべながら苦い表情でアサギが声をこぼせば、隣を歩くカンナも同じく苦い表情で小さく頷く。恐らく、彼女も似たような事を感じているのだろう。
そんな二人の事を知ってか否か、フード頭は嬉しそうに目の前に広がる“セカイ”を見回す。


「カンナ、アサギ。“さんぽ”って、いいな!」


周囲をくるりと見回したフード頭――――もとい、アラガミの少女・シオはカンナたちの方を振り返って満足そうな笑みを浮かべてみせた。


「あぁ!シオ!!急に振り返ったらフードが脱げるって!!」


振り返った反動で目深に被ったフードがやや後ろにずれた事に気付いたアサギは、慌てて彼女の後頭部に手を伸ばし、少し顕になったシオの雪のように白い肌をフードで隠す。
彼の素早さに「おぉ〜」と感動にも似た声を一つ溢したシオ。出掛けに言われた“約束”を思い出したのか、フードの端を両手で掴み、えへへと無邪気に笑った。
彼女の小さな体をすっぽりと覆い隠しているのは、カンナたちと同じく第一部隊に所属するソーマ・シックザールのコートだ。アサギが本人の同意を得てレンタルしてきた物らしいが、真偽は定かでない。
男性用のコートであるため、シオの異質な体を隠すには丁度いいのだが……


「……結構、心臓に悪いですね……この散歩……」

「ね。これなら、一緒に任務に連れて行くほうが楽だったかも……」


アラガミであるシオは極東支部内でも極秘中の極秘の存在だ。そんな彼女が何故、こうして外部居住区を探索しているのか。それは二日前、彼らがラボラトリで交わした会話が理由となる――――



* * * * *



フェンリル極東支部――――通称・“アナグラ”は地下施設でありながらも、空調管理などの設備がそれなりに整っていて普段は外の気温や天気は関係なく、常に過ごしやすい環境が維持されている。しかし、一週間以上も続く長雨には地中と言えど流石に適わないのか、アナグラ内に漂う空気は水気を多く含んでいてジットリとしていた。


「あー……カビが生えそう……」


そんな気だるいコウタの声が響いたのは、ペイラー・榊が管理するラボラトリからだった。
部屋の片隅に設けられたソファーにだらしなく横たわり、唸り声にも似たような声をこぼす彼に、「言ったら余計に湿っぽくなるじゃん……」とぼやいたのは、コウタと同じく第一部隊に所属する朝永アサギだ。
アサギも、この湿度に参っているのか、後ろでまとめている髪を普段よりも少し高い位置でまとめ、支給品の制服は首元を広くさせて少しでも熱を逃がそうとしているらしい。


「湿っぽくって……なんだか使い方間違えてる気がしますよ」


小さな溜め息をこぼしながらそう言ったのはアリサだ。ロシア出身の彼女がここで一番堪えているらしく、何とか風を求めようと手で顔を扇いでいた。


「えー?今の状況を湿っぽい以外に何て言えるんだよ。このジトジト……本当に嫌になる……」

「湿っぽい、というのは悲しい場面とかを指すんじゃないんですか?」

「こっちの言葉は同じ発音でもタイミングによって意味が違――――」

「ゴチソウサマ、デシタ!」

「――――……うんだよ……」


アサギの言葉を遮るように響いたのは満足そうなシオの明るい声。
三人が揃ってシオの方に視線を向ければ、ラボラトリの床にペタンと足を伸ばした状態で座る彼女は両足に挟んだ空のバーレルを持ち上げ、ニコニコと笑っていた。
その隣に屈んでいたカンナが「お腹いっぱいになった?」とシオの真っ白な頭を優しく撫でる。
どうやら、アラガミ少女にはこの湿度は一切関係ないらしい。少し前に彼らが調達してきた食事(アラガミ)を普段と変わらないペースで全て平らげ、膨れた腹に幸福感を抱いていた。


「いいですね、シオちゃん……暑さも湿度も気にならないなんて……」

「やっぱ、アラガミだからじゃねーのー?」

「あー……グボロの堕天種がマグマを泳ぐ感じ?それなら、これなんて些細なことかもねー……ってか、カンナ。わりと平然としてるけど、暑くないの?」

「え?私ですか?……んー……ちょっとムシっとするか、とは思いますけど……?」

「大変だ、カンナがアラガミ化してる」

「な、何でそうなるんですか!!」


なんて冗談も、全て気だるそうなトーンで繰り広げられているのが現状だ。

ごろんと寝返りを一つ打ったコウタは、室内に設けられた大量のパソコンの奥で皆と同じように湿度に参った表情の部屋の主・榊に「なー、博士ー」と声をかける。


「いつになったら、雨止むか分からないんすか」

「さてねぇ……昔に比べて天候が不確定になった今では天気予報なんて意味があってないようなモノだからからね。明日かもしれないし、明後日かもしれない。あるいは人類はアラガミではなく天災に滅ぼされてしまうかもしれないよ?」


物騒な発言と共に、丸めがねを軽く指先で持ち上げながら狐のような目を細めて笑った榊は、手元にあった何かの資料を団扇のようにしてパタパタと顔を仰ぐ。


「うわー……この雨の中でアラガミ倒してきた俺らの意味って……」

「ははっ。でも、君たちの行動のおかげで一人の“女の子”がお腹一杯になったんだよ」


その言葉に、その場にいた全員がシオへと視線を向ける。
彼女は膨れた腹を幸せそうに撫でながら床にゴロゴロと転がっていた。妙に人間臭い仕草にフッと最初に小さく笑ったのはカンナだ。


「平和だなぁ」



――――
ここまでだよ!!
たぶん、ソーマが合流するんじゃないかなって。オチは皆さんで見つけてください。


2020/06/04 20:54
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